(12)

「フフン、どうした? クソザコ」

 ヒルダは笑い声を漏らしながら、三歩ほど前に進み出た。


 なぜだ!

 あんなに魔力を強めた『シール』が効かないなんてありえない!


「もしかして、今の魔法がキサマの切り札だったのか?」

 ヒルダの勝ち誇った声が森の中にこだまする。

「バカめ、剣で私を殺せば勝てていたのに」


「だ、黙れ!」

 と、叫んだものの、それは単なる負け犬の遠吠えでしかなかった。


「黙るのはキサマの方だ!」

 ヒルダが杖を振る。

『――イビルバインド!』


 杖の先から紫色をした魔法のリボンが伸び、僕の体をぐるぐる巻きにした。

 リナを捕らえたのと同じ呪文だ。


「うぐっ」


 全身をぎゅうっと締め上げられ、思わずうめき声が漏れでる。

 相当苦しい。

 が、それでも僕は『シール』が発動しなかった理由を考えずにはいられなかった。


 自分の魔力はヒルダを上回っているか、少なくとも拮抗きっこうしているはずなのにどうして――?


 思い当たる原因はただ一つ。

『デス』や『ストーン』の闇魔法が僕に効きにくかったのと同じように、ヒルダは『シール』の魔法に対し耐性を持っているということだ。


 特定の魔法が効かない。

 そんな敵は幾らでもいるのに、どうして考えが及ばなかったのだろう?

 結局、少しくらい魔法が使えるからといって、調子に乗ってしまった自分が愚かだったのだ。


 この異世界アリスティアに来て取り戻しつつあった自信――

 それが一瞬で、ものの見事に落ち砕かれてしまった。

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