(9)

「キサマ、いつの間に『マジックガード』を!」

 ヒルダが悔しそうに叫ぶ。


 なぜ『ダークフレア』が通用しなかったのか、ヒルダはその原因にすぐに気が付いたらしい。

 まあ確かに、種を明かせばどうってことないのだが。


 ヒルダが最初、僕に向けて放った『ストーン』と『デス』――これはいわばゼロか百かの確率の魔法だ。

 そしてそのどちらも効果は出なかった。


 となると次にヒルダが試す魔法は何か?

 選択肢はおのずと限られてくる。

 非確率系の、体に直接ダメージを与える物理系の攻撃魔法以外ありえない、ということになるだろう。


 そこで僕は、ヒルダとシャノンが言い争っている間、前もって自分に『マジックガード』をかけておいた。


 そして読みは見事に当たり――

 ヒルダの『ダークフレア』は、魔法の防御壁に当たって爆散したというわけだ。


 それらは「戦術」と言えるほどたいそうなものではないかもしれない。

 けれど異世界に来たばかりのころに比べたら、僕もだいぶ戦いのポイントというか、コツがつかめてきたような気がする。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 しかしいくらヒルダの魔法を防いだとはいえ、こちらが不利な状況は何も変わっていないのも事実だ。

 結局、自分の力だけでヒルダと戦いリナを取り戻すしかないのだから。


「マティアス様、お腹の傷はとりあえず危険な状態は脱したと思います。あとはヒルダを倒してから治しますから、どうぞここでお待ちください」

 僕はマティアスにそう声をかけ、返事も聞かず前へ飛び出した。


「ユウト、待て!!」


 マティアスは手を伸ばして叫んだが、もちろん僕は止まらなかった。

 ターゲットはすべての元凶、ヒルダただ一人だ。

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