(8)

「やってくれたわね、ヒルダ。罪のない子供がまた死んだ」


 爆炎に包まれた僕とマティアスを見て、シャノンが悲しそうに言った。

 だがヒルダは、そんなシャノンに悪態をつく。


「バカかオマエは! そいつはオマエが苦戦していた竜騎士を回復しようとしたのだぞ」


「だからって!」


「甘すぎる! 復活した竜騎士と二人がかりで攻められたら厄介ではないか」


「私とあなたが組めば、そうなる前にいくらでも対処できたでしょう! さっきだってヒルダ、あなたが見境なく王女にうつつを抜かすから――」


 再び二人の喧嘩が始まろうとした時――


 偶然、森の中に一陣の強い夜風が流れた。

 風は『ダークフレア』の爆発によって発生した黒い煙を、ぱっと吹き飛ばす。


「な、なにっ!?」

 ヒルダが叫んだ。


「へえ、なかなかやるじゃない」

 シャノンは感心したように、小さく口笛を吹く。


 きれいに煙が消えた後、ヒルダとシャノンは、そこに立っているまったく無傷の僕の姿を見たのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 やった。

 これで大陸一の魔女の魔法を三度も防いでしまった。


「効かないんだヒルダ」

 と、ちょっと得意げな気分でつぶやく。

「その程度の魔法、僕には効かない」

 

 だが――

 ヒルダはそう生易しい相手ではないことを、僕はすぐに思い知らされることになる。

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