(7)
「とにかく今はマティアス様を助けます」
僕は魔法を唱えようと、強引にマティアスに向けて両手をかかげた。
ところがそれは、シャノンが構えを解き、刀身を鞘に納めたのとほぼ同じタイミングだった。
「私の負けね」
シャノンが大きなため息をついた。
「今、あなたとやり合うつもりはない」
「それは賢明だな」
ヒルダも杖を下ろす。
「ただし一つ条件があるわ」
シャノンがヒルダに鋭いまなざしを向けて言った。
「王女を連れて帰るのは邪魔しないけど、彼女にこれ以上酷いことをしないと約束して」
ヒルダは少し考え、渋々と返事をした。
「……まあ、いいだろう。それは約束してやる」
その瞬間、二人の殺気に満ちたオーラがすっかり消えた。
森の中がシンと静まり返る。
「ではシャノン、話がまとまったところで残りの竜騎士どもを一気に片付けるぞ」
「ちょっと待ってヒルダ、もう一つだけ。あの白魔法使いの少年のことだけど、彼も助けてあげて――」
と、シャノンが森の中を見回す。
ダメだ、時間が足りない!
魔法を唱えながら二人の会話を聞いていた僕は、マティアスと一緒に戦うことを断念した。
治療はまだ始まったばかり。
マティアスは剣を取ることはおろか、立つのがやっとの状態だからだ。
ヒルダが『リカバー』を使いマティアスを治療する僕に気付いたのは、それからすぐのことだった。
「ちっ! ザコが、させるかっ!!」
ヒルダは怒鳴って杖をふりかざした。
『――ダークフレア!!』
闇の爆破魔法!
ヒルダの持つ杖の先から、太陽の黒点のような球状の黒いマグマが発生し、こちらに向かって飛んでくるのが見えた。
『ダークフレア』は、『ストーン』や『デス』と違い、物理的な攻撃魔法。
今のマティアスに、あのマグマが当たれば確実に命を失ってしまう。
ええい、こうなったら、なるようになれ!
僕は『リカバー』を唱えるのを中断し、前に飛び出して、マティアスを庇うように大きく両手を広げた。
次の瞬間――
「バンッ!」という鼓膜に響く大きな爆発音がして、視界が黒煙で遮られた。
すべてを焼き尽くすドス黒い炎に、僕は包み込まれてしまった。
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