(4)

 そんなマティアスの悲惨な姿を見て、僕は本当に申し訳なく思い、激しく心が痛んだ。

 マティアスがああなってしまったのは、完全に自分のせいだからだ。


 そうだ。

 今からでも遅くはない。

 一刻も早くマティアスを治癒しよう。 


 その後で二人で力を合わせれば、あるいはヒルダの魔法に打ち勝つこともできるかもしれない。 



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕はすぐさま行動を開始した。

 マティアスの方へ、こっそりと横歩きで近づいたのだ。


 ヒルダとシャノンは喧嘩を続けていて、僕のその動きには気付かない。


「どうしたの? かかってこないの?」

 シャノンがヒルダに挑発気味に言った。


「まったく……」

 ヒルダがわざとあきれたような声を出す。


「もう少し頭が働く女かと思ったが、どうやら達者なのは剣技だけだったようだな」


「なにそれ、一体どういう意味?」

 シャノンが眉をひそめる。


「バカめ、まだわからないのか。よいかシャノン? 今ここでワタシと戦って万が一オマエが勝ったとしよう。しかしそれがどんな結果を招くと思う? オマエはそれ以上傭兵稼業を続けることはできなくなるぞ。どの国どの場所に行ってもな」


「………………」


 シャノンが言葉に詰まった。

 ヒルダをにらんだまま紅い唇をキュッと噛む。


「ようやく理解したか。そうだ、自分の主義主張を通すためあるじに剣を向ける。そんなバカを雇う人間はこの世のどこにもいないということだ。その上おきて破りで傭兵ギルドからも永久に追放されてしまう。違うか?」


「……そんなこと覚悟の上よ」


「フンッ、ならばもう一つ言っておこう。ワタシに刃向うということは、すなわちオマエが“ゴート”の敵になるということ。それもわかっているのだろうな?」


「え!? それは……」


“ゴート”という単語を聞いた途端、シャノンに落ち着きがなくなった。

 今までのクールな態度が嘘のようだ。


「おやおやそこは想定外だったか。さすがのオマエも相手が帝国では分が悪いと見える」


 そう言ってヒルダはフードの奥から笑い声を漏らした。

 動揺するシャノンを見て、すっかり余裕を取り戻した感じだ。

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