(5)

 ゴート?

 どこかで聞いたことがあるような……。


 僕は懸命に記憶の糸をたぐった。


 そうか……思い出した。

 戦いが始まる前エリックが教えてくれた、この異世界の地に燦然さんぜんと輝く一大帝国の名称だった。


 正式名称「グラン=ゴート帝国」

 異世界アリスティア大陸の東に位置し、その国力は中央のロードラント王国、西のファリア共和国を遥かに凌ぐという。


 エリックは確かこうも言っていた。


 大陸統一の野望を抱くゴート帝国は、同盟を結んで帝国に対抗するロードラント・ファリア両国の力を削ぐため、裏で様々な謀略をめぐらしている。

 そして、イーザ族の反乱を裏から糸引くのも、おそらくは――


 どうやら見えてきた。

 今、目の前で言い争いを続けている魔女ヒルダこそ、今回の戦争の影の主役ではないのだろうか?

 彼女がゴート帝国の密命を受け、イーザを焚き付け、またハイオークを使ってロードラント軍を襲わせた。

 そう考えると、色々と辻褄つじつまが合ってくるのだ。


 ヒルダがアリスをどうしても連れて帰りたいワケも分かった。

 アリスに歪んだ恋愛感情(?)を抱いているのも理由の一つだろうが、真の目的は別にある。


 ロードラント王国の第一王女かつ王位継承者でもあるアリスは、人質としてこれ以上ないほど価値を持つ存在だからだ。

 アリスを外交上の交渉材料に使えば、それだけで、ゴート帝国はロードラント王国に対し絶対的な優位な立場に立てるだろう。 


 ――そこまで考えたところで、僕の額に冷たい汗が流れた。


 嬉々として連れ帰ったアリス王女が、実は真っ赤なニセモノだったと知れたらどうなる?

 手柄を立てたつもりのヒルダは怒り狂い、その矛先は真っ先にリナに向かうに違いない。


 暴行、凌辱、拷問――その先にある死。

 リナが想像を絶するような悲惨な最期を迎えることになるのは、火を見るより明らかだ。


 そんなことになる前に、何としてでもリナを悪魔ヒルダの手から救い出さなければ!


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