(5)

「マティアス様! いま回復します!」


 僕はそう言って、負傷したマティアスへ走り寄ろうとした。

 が、マティアスは歯を食いしばって叫んだ。


「バカ者、お前は自分の役目を果たせ! まずはアリス様を助けろ!」


 ……言われてみればその通り。

 自分は王女の護衛なのに、捕らわれた王女を差し置いてマティアスを助けるのはあまりに不自然、順序が逆だ。

 結局、ここはどうにかマティアスに耐えてもらい、少しでも早く魔女を倒す。

 それしかない。


 と、心に決めたところ――

 偶然、一体のアンデッドが腐臭を漂わせながら僕に襲い掛かってきた。


 しかし焦りはなかった。

 アンデッド系を倒すには回復魔法というRPGの世界のセオリーを、僕は熟知していたからだ。


『リカバー!!』


 魔法を唱えた途端、アンデッドがたちまち優しい光に包まれた。

 もちろんそれは普通の人間にとって救いの輝き。

 だがアンデッドにとっては、どんな強力な攻撃魔法よりも大ダメージ受けてしまう恐怖の煌めきだった。


 そして、結果は予想通り――


『リカバー』の光で浄化されたアンデッドは「グオォォォォ」という不気味な声を上げ、その場に崩れ落ち、溶けるようなくなってしまった。

 後に残ったのは白い骨ばかりだ。


 一度コツをつかめばあとは楽勝。 

 僕は森の中をうごめく無数のアンデッドを、次々と『リカバー』で浄化していった。

 魔女によって無理やり蘇った竜騎士をあの世に戻してあげただけだから、心も痛まない。

 むしろ良いことをしているような気分にさえなる。


 とはいえ『リカバー』の威力はあまりに高すぎた。

 効果がありすぎて恐いくらい、どんな個体でもすべて一撃で倒せてしまう。

 そこに油断とスキが生じてしまったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る