(2)

「い、いやあああああーー」

 リナが悲鳴を上げる。 


 ――させるか!!


 僕はリナがまとっている王家のマントをしっかり握った。

 が、光の帯の力は思いのほか強烈だ。

 しばらくグイグイと綱引きをしていたが、途中でマントがビリッと大きく裂けてしまった。


「うわっ」


 力が余って体勢が崩れた。  

 マントの切れ端をつかんだまま、僕は馬から転がり落ちた。


いてっ!」


 右足に激痛が走る。

 足首を強くひねったらしい。

 この異世界にきて初めて感じる強烈でリアルな痛み――

 もしかして骨が折れているかもしれない。


「ユウトさん――!」


 叫び声も虚しく、光の帯に捕えられたリナは魔女の元へぐんぐん引き寄せられていく。

 絶対に助ける! と、僕は無理に立ち上がったが、痛くてほとんど歩けない。


 こんな時にケガをするなんて!! 

 混乱して頭がカッと熱くなってしまう。


 それでも足を引きずりながらなんとか前へ進むが、そこではアンデッドと竜騎士が入り乱れて戦っていた。


 クソッ!

 まずは目の前のアンデッドを倒さなくちゃどうしようもない。


 そんな風に僕がもたついている間に、魔女は光の帯を操りリナの体をぐっと抱き寄せてしまった。


「ああ、噂にたがわぬ美しさ……」

 魔女がうっとりとした声を出す。

「素晴らしい、本当に素晴らしい。まさかこれほどまでとは思わなかった」


「ぶ、無礼な。その手を離しなさい!」

 リナが必死に叫ぶ。 


「どうした? そんなに震えなくても良いではないか。これからワタシがたっぷり可愛がってやるのだから……」


 どういう意味だそれは!

 魔女の言葉を聞いて、僕の体に嫌な悪寒が走った。

 まさか人前で……。

 

 しかし魔女は周囲のことなど気にしていない。

 ローブフードの奥から笑い声を漏らし、真っ赤なマニキュアを塗った手をリナの胸元あたりに伸ばした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る