(8)

 アリスはどこだ?

 

 僕は激戦の最中さなかに見失ってしまったアリスの姿を探し、周囲を見回す。


 ロードラント陣営は、新たなハイオークとコボルト兵の出現によって混乱具合が加速していた。

 その中で、僕はまず馬に乗ったリナの姿を探し当てた。


 ということはそばにアリスが――

 いた。


 アリスはちょうど自分の白馬に騎乗するところだった。

 このロードランド軍存亡の危機に、馬上から兵士たちを励まし勇気づけようというのだろう。

 が、その前に一つ、どうしてもアリスにやってもらいことがあった。


 僕は兵士の山をかき分けアリスの元へ行こうとした、その時――

 数本の流れ矢が頭上を飛び越えていくのが見えた。


「!!」


 それはあっという間の出来事だった。

 流れ矢のうちの一本が、リナの乗った馬の首の付け根を直撃してしまったのだ。


 射抜かれたリナの馬はぶるっと痙攣けいれんし、大きくよろめいた。

 このまま倒れたらリナが危ない!

 下手をすれば馬体の下敷きになってしまう!


「リナ、馬から飛び下りろ!」

 それに気付いたアリスが叫んだ。


 言われた通り、リナは持ち前の運動神経の良さを発揮し、とっさに鞍を蹴って高く飛んだ。

 その直後、馬はドスンと大きな音を立て横倒しになってしまった。


 アリスが慌てて地面に転がったリナを抱き起す。


「大丈夫か、リナ!」


「はい、なんとか……」


 リナはアリスに支えられ、ヨロリと立ち上がった。

 全身が泥で汚れ腕に大きなアザができている。


「リナ、体を見せてみろ」

 アリスはリナの体の泥をはたきながら、ケガの程度を確かめた。


「アリス様、おやめください。そんな恐れ多い……」


「いちいち気にするな。――よし、大した傷は負ってないようだな。まったく本当に肝が冷えたぞ。お前の身に何かあったら、私は永遠に立ち直れなくなる」


 それはアリスだけじゃない。僕だって同じだ。

 というかこの異世界アリスティアでもリナを失ったら、この地で生きていく意味がほぼなくなるような気がする。 


 僕は急いでリナの元へ駆け寄った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る