(7)
「散々考えたよ。でも何も思いつかないんだ。もう時間がないんだから頼む!」
僕のその頼みを数秒のあいだ思案したのち、セリカは言った。
「そうね、わかった。ここでユウト君に死なれちゃってもつまらないし」
「……つまらないってどういう意味だよ」
「あ、つい口が滑っちゃった」
セリカはフフフっと笑う。
「今のは取り消し。そうではなくて、あなたの戦いぶりに敬意を表してちょっとだけヒントを上げる」
「アドバイスじゃなくてヒントだけ!?」
「いいから! まず言いたいのは、あなたは戦いの基本を忘れてるってこと」
「基本?」
「うん、基本中の基本。――そう言えば、あなた確か戦記物とか軍記物とか、そういった類の話が好きだって言ってたよね」
「え、なんで知っているの?」
「現実世界でちょっとそんな話しをしたじゃない」
「そうだっけ?」
そんな記憶、まったくない。
「でね、『敵を知り己を知れば百戦あやうからず』って超有名な格言は知っているでしょ? ユウト君はその『敵を知る』って部分がちょっとばっかし足りなかったかなあって思うの」
「敵を知る?」
「そう! あなた、最初にコボルト兵と戦った時、そのステータスを調べようともしなかったよね」
「……確かに思いつきもしなかった。あんまり強くなさそうだったし」
「それが間違いの始まりよ。もっとも数が多い、その敵の強さを知っておかないなんて愚の骨頂。さあ、今からでも遅くないからコボルト兵を『スキャン』してみなさい」
「分かった……」
言われるままに、僕は間近に迫るコボルト兵一匹に照準を合わせ『スキャン』を唱えた。
ネーム:コボルト
クラス:モンスター
H P:225/250
M P:0/0
力 :120
知 力:40
速 さ:133
守 備:120
運 :95
白魔法:0
黒魔法:0
スキル:なし
状 態:普通
弱 点:聖なる光 強い光
やっぱりステータスはかなり低い。普通の人間に毛が生えた程度の強さといえる。
が、注目すべきはその弱点だった。
「そうか! それだ!」
「気付いたようね。コボルト兵は本来夜行性。目が大きいから光に対する感受性が強いのかもね」
「でも!」
セリカに対し、急に怒りが湧いてきた。
「そんなこと知っているなら何で、何で早く教えてくれなかったんだよ! もっと多くの人を救えたかもしれないのに!」
「え? それも人のせいにするんだ」
けれど、セリカの声はさらに冷たくなった。
「いい、ユウト君。そんな甘ったれた思考回路だから現実世界で失敗続きだったのよ。むしろ最初にそれを思いつかなかった
「……清家さんにそこまで言われる筋合いはないよ」
「うるさいわね! 私に怒りの矛先を向けるなんてお門違いもいいとこ。それより急いだほうがいいんじゃない? なにもかも手遅れになってしまうわよ」
「……絶対助かってやるから、見てろよ!」
「その意気よ。ま、せいぜい期待してる――」
と、セリカが言いかけたところで、僕は乱暴に電話を切った。
無性に腹が立つ。
セリカはまるっきり上から目線の神様気取りだ。
もし現実世界に戻る機会があったら、セリカのこと必ずとっちめてやる!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しかし、とにかく今はこのピンチを脱しなければ――
そしてそれにはアリスの協力が不可欠なのだ。
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