(5)

 せめて僕が、敵を範囲攻撃できるような黒魔法を使えればよかったのに。

 やっぱり回復職ヒーラーなんて職業選んだのは、大きな間違いだったのだ。


 と、数時間前と同じ後悔をしながら、絶望的な気分で天を仰ぎ見る。


 するとそこには広い広い空があった。 

 陽はややか傾きかけ、昼間濃かった青色はかなり薄まっていた。


 ここまで頑張ったのに、結局みんな助からないなんて……。


 もし、この世界に本当に神様が存在するのなら、ここで奇跡を起こしてくれてもいいだろう。

 なのに、何も起こらない。


 すなわち、この美しい空のどこにも神様はいない。

 そう思わずにはいられなかった。


 いや、たとえ神様が存在したしても、どこか遠い場所で僕たちの行い黙って見ているだけなのかもしれない。

 単なる観客、傍観者ぼうかんしゃとして――


 ………………

 …………

 ……傍観者?


 傍観者と言えば――


 僕はそこである人のことを思い出した。

 いるではないか。

 遠い現実世界から、まるで神様のように僕らを見下ろしている人物が。


 清家せいけセリカ。

 僕をこの異世界に送りこんだ張本人。

 

 そうだ!

 助けを求めるのはしゃくに障るが、セリカならこの窮地きゅうちを脱する方法を知っているかもしれない。


 最後に残された希望は、彼女だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る