(4)

 戦場に凄まじい怒号が鳴り響く。

 刃と刃のぶつかる音が空気を鋭く震わせる。


 ロードラント、イーザ両軍の戦いは緒戦から苛烈かれつを極めた。


 イーザ騎兵は幾重いくえにも部隊を分け、押しては引く波のように突撃を繰り返す、いわゆる波状攻撃の戦法を取ってきた。


 一方のロードラント軍はアリスを中心にして壁を作り、騎兵の攻撃を懸命に跳ね返すだけで精一杯。

 さながら強い波を防ぐ防波堤、と言ったところか。


 しかし――


 どんなに強固なつつみでも、幾度となく押し寄せる波の浸食には耐えられない。

 そこそこ厚かったロードラント軍の兵士の壁も次第に崩され、いびつな形へと変化していく。

 竜騎士たちが遊軍となってそのカバーに入るが、それも限界があった。


 その上、イーザ軍は指揮統一された精鋭ぞろいの騎兵集団で、烏合の衆だったコボルト兵とはワケが違う。

 決して無理はせず、こちらの消耗を待って徐々に押していくる手練れた攻め方をしてくるのだ。

 

 このままだと、思ったよりずっと早く決着がついてしまうかもしれない。

 もちろん最悪な方向へ。


 その戦況をなんとか有利な方向へ持っていくには――?

 やっぱり僕の魔法しかないだろう。


 が、白魔法のみでいったいどうやって戦えばいい?

 しかも相手は二千の騎兵だ。


 一人一人『スリープ』をかけて眠らせる?

 いやそんなことはもちろん不可能、何かもっと別の魔法を――

 と、必死に考える。


 しかし、悪い時には悪いことが重なるもの。 

 ロードラント軍のしんがりを務めていたはずの副官マティアスが、後方から馬を走らせ、兵士たちに向かって叫んだのだった。


「みんな気をつけろ! 後ろから新手のコボルト兵が大量に現れたぞ。さっき倒したのとは別のハイオークもいる!」


 驚いて振り返ると、平原の彼方かなたから迫る黒山のようなコボルト兵の集団が見えた。

 その中にでも、一際目立つハイオークの巨体。


 なんてことだ!


 前門のイーザ騎兵団。

 後門のハイオーク+コボルト兵軍団。

 

 この二軍団に挟み撃ちにされ、何をどう気をつければよいと言うのか?

 

 ――絶体絶命。


 もはやそんな言葉しか思い浮かばない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る