(3)

「アリス様!」

 その時、僕とアリスの会話を苦笑しながら聞いていたレーモンが叫んだ。

「兵士たちが!」


「ウォォォォォォォォー」


 それは丘のふもとで待機していたロードラント軍兵士の、今までにない大きなときの声だった。

 イーザ騎兵から逃げるアリスを見て、居ても立ってもいられなくなったのだろう。

 兵士たちは全員、こちらに向かって一斉に走り出した。


「アリス様!」

「よくぞご無事で!」

「素晴らしい戦いぶりでした!」

 

 兵士たちがアリスをわっと取り巻き、口々に賛辞を贈る。

 ロードラント軍を救うため命を賭して戦ったアリスの姿に、みんな強く心を打たれたのだ。


「皆、すまない。心より感謝する――」 

 アリスはもみくちゃになりながら、感極まって声を詰まらせた。


 が、再会を喜んでいる時間はもうない。

 イーザ騎兵団はすぐ目の前に迫っている。


「みんな急げ!」

 レーモンが急いで指示をとばす。

「騎兵を恐れるな、アリス様を中心に一か所に固まって敵の攻撃を阻止しろ!」


 兵士たちもアリスを守りたい一心で、我先われさきにとアリスを囲み壁を作った。

 が、それはあくまで急ごしらえで、陣形と呼べるようなキチンとしたしろものではなかった。

 いくら士気が高いとはいえ、これでイーザ軍に対抗するのは当然厳しい。


 しかも向こうは騎兵、こちら歩兵主体の編成だ。

 山や森など入り組んだ地形ならともかく、ここはだだっ広い平原。

 機動力に勝るイーザ側が圧倒的に有利なのは誰でも分かる。


 おまけにロードラント軍には、ハイオーク、コボルト兵たちと戦ったダメージがまだまだ残っていた。


 結局、戦う前から勝負は目に見えているのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「来るぞ!」


 兵士の誰かが叫んだ。

 そこへ、砂埃をあげながら、イーザ騎兵団が正面切って突っ込んできた。




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