(11)

「貴様!」

 レーモンが怒り狂って怒鳴った。

「アリス様をどうする気だ!」


「へへっ。それはさ、言わずもがな、だろ」

 セルジュの顔に下卑げびた笑いが浮かぶ。 

「戦いに勝って、捕虜として美しい王女様がやってきたら――まあやることは一つだよね。みんなで王女様をさかなにして楽しい楽しいうたげを催す。それしかないだろ? 俺たちは長い戦いで女に飢えてるしね」


 やっぱり……そういうことか。

 鈍い僕にでも意味はわかる。

 さっきのセルジュの発言は冗談ではなかったのだ。


 そして僕は――

 一瞬、ほんの一瞬だけ、裸に剥かれたアリスが大勢のイーザの兵士たちに囲まれ「あんなことやこんなこと」をされるシーンを思い浮かべてしまった。


 体がぶるっと震えた。

 最低だ、最低!! 

 一瞬でもそんな酷いことを想像してしまうなんて――


 僕は頭の中からその嫌な想像をすぐに振り払った。

 が、それでも自分自身に強い嫌悪を感じてしまう。

 

 しかし、セルジュはニヤニヤしながら言った。


「早く決めてくれよ、騎兵に踏みつぶされて全員死ぬか、それともアリス王女を差し出すかどっちがいい?」


 倫理観と罪悪感の欠如。

 自分の欲望が生きる目的のすべてで、そのためなら人を人とも思わない腐った性根――


 おぼろげながら分かってきた。

 現実世界風に言えば、セルジュは一種のサイコパスなのかもしれない。


 要はこちらがどんな正論を言っても、善悪の判断基準が180度違うから、まったく話が通じないのだ。

 そして良心のカケラがないぶん、双子の姉のセフィーゼよりもさらにたちが悪い。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る