(10)

「まあ待て!」


 その時、アリスがみんなの興奮をなだめるように言った。


「セルジュ、知っての通り我々は決闘デュエルに勝利した。その場合イーザ側は素直に軍を引くという約束だったはずだ。まさかとは思うが、お前はその約束を破ろうというのか?」


「へっへーん。そんなの当ったり前だろ!」

 セルジュは事もなげに言い放つ。

「あのさ、アリス王女様。勝利を目前にしたオレらがこのまま黙って引き下がると思った? だとしたら甘すぎだね。今まではセフィーゼのお遊びに付き合ってたけど、それももう終わりなんだよ」


「ほう」

 アリスは無表情に答える。


「だいたいさ、目の前にこんな綺麗な王女様がいるのにオレがあっさり逃すワケないじゃん」

 セルジュはそう言いながら、アリスの全身を舐めまわすように見た。

「でもまあ、決闘デュエルの負けは全部チャラにするとしても、オレにも情けってものはあるんだよね」


「と言うと?」


「セフィーゼが最初に出した条件なら呑んでやってもいい。つまりアリス王女がオレらの人質になってくれるなら他の奴らは助けてやってもいいぜ。あ、安心していいよ。アリス王女は俺がていねーいにおもてなしするから。こんな綺麗な王女様、レムスのエサにするのはもったいなくてもったいなくて」


 セルジュのそのセリフの中には、何ともいえない不快な響きがあった。

 こいつまさか、本当にアリスを……!


 セルジュが窪地に隠れてなかなか出てこなかったのは、そこでアリスという獲物を虎視眈々こしたんたんと狙っていたためか。

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