(12)

「なんと卑怯な!」

 レーモンが歯ぎしりをする。


「卑怯だって? 笑わせるなよ!」

 そう言うセルジュの目は、ちっとも笑っていない。

「そんな言葉、親父を騙して毒殺したお前らだけには言われたくないね。――さあもう待てないぜ。オレは案外気が短いんだ」


 迫られる究極の選択。

 だが、それに対するアリスの答えはごく明快だった。


「いいだろう、私は喜んでお前たちの捕虜になってやる。それで皆を救えるなら迷う理由はない」


「ア、アリス様!」

 レーモンが驚倒して叫ぶ。

「それだけは、それだけはなりません!」


「おいおいそう興奮すんなよじーさん」

 セルジュがニヤつく。

「王女様自ら、自分の進むべき道を立派に選んだんだ。ちゃんと尊重しろよ」


 ああ、これですべてが振り出しに戻ってしまった。

 かといって、魔法なしでアリスを救うような妙案も見つからない。


 怒るのも忘れ、ただぼう然とする僕とレーモンをよそに、アリスとセルジュはどんどん話を進めてしまう。


「おいセルジュ、私が捕虜になるのはかまわないが、その前に一つ条件を付けさせてもらおう」


「なんだよ」


「生き残ったロードラント軍をこの戦場からただちに撤退させる。それについては異存ないな」


「あーいいよ、別に」

 セルジュは感心なさげに言った。

「オレは王女様さえ手に入れればそれで満足だから」


 セルジュ、こいつ……。

 いくさの勝敗よりも自らの欲望の方を優先させるというのか。


 いや、そんなことより――


「よし、これで決まりだな」

 アリスは一人でうなずいている。


「なら、さっさと軍を撤退させてくれよ」

 セルジュがアリスをせかす。


 ヤバい。

 本当にヤバい。

 二人は勝手に合意を成立させてしまった。

 

 と、焦りまくっていると――


「グルルルルルルル」

 聞き覚えのある唸り声が下の方から聞こえてきた。


 ん? この声は……。

 もしかしてサーベルタイガー!?


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