(9)

 しかし、悪寒はすぐに治まった。

 沸々ふつふつと湧き上がってくる怒りの感情の方が、その何倍も強かったからだ。


(一応わざとではないらしいが)サーベルタイガーにアリスを襲わせたどころが、ゲスな冗談でアリスを侮辱するとは――!


 僕は腹立ちまぎれにセルジュをにらみ返した。

 こんな奴すぐにでも魔法でとっちめてやるのに、背後に控える騎兵団のせいでそれができないのがもどかしい。


 が、セルジュも、レムスを眠らされて相当腹を立てているらしく、怖い顔で僕を脅しにかかった。


「おい、兄ちゃん。それ以上レムスに魔法を使ったらただじゃおかねえぞ! それに触れるのもぜってーだめだ。万が一レムスの身になんかあったらその時も騎兵で総攻撃だぜ! ――おい、そこのじーさん! 聞いてんのか、その剣を捨てろ!」


 セルジュがショートソードを構えたままのレーモンに向かって怒鳴った。


「断る! 貴様の命令なぞ誰が従うか!」


 レーモンは完全に殺気立っている。

 僕と同じく、セルジュの態度にぶち切れているのだ。


「アリス様、こやつのたわ言など気にするに及びませぬぞ」

 レーモンはセルジュににじりよりながら、アリスに言った。

「一刀両断。私が即、成敗してくれましょう。どうぞお許しください」


「へえー、オレの言っていることがウソだと思ってんのかよ!」

 セルジュは目を剥いて叫ぶ。

「じゃあ、やれるもんならやってみればいいぜ。けどな、その後騎兵が突撃してきてお仲間が皆殺しになっても泣きごと言うんじゃねえぞ。後でいくら謝っても許してやんねーから。ほらどうした、さっさと切りかかってこい!」


 

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