(8)

「あー本当にうっざいなあ。ヘクター、聞いてなかったのか? 族長はオレが襲名してやったんだよ」


「そんなこと私が絶対に認めません!」

 ヘクターは憤然として言った。


「残念だったなあヘクター。丘の上で待っている騎兵の連中とはもう合意したちまったんだ。――まあ、当然だろ? 負け犬に族長なんぞ任せてらんないからな」


「な、なんですって!」

 セフィーゼが怒って叫ぶ。


「カッカしても無駄だっつうの。騎兵はもうオレの命令でしか動かねえからな。でさ、ついでに言うと。オレが族長になった以上、ヘクター、お前は速攻でクビだ。このセルジュ様にお目付け役なんて必要ないからな」


 セルジュはそう言い捨てると、こちらに向き直った。

 それから手を振り、調子よく言った。


「というわけで、イーザの族長は今からオレだから、よろしくぅ!」


 そんなセルジュに、アリスは冷たい声で返答した。

 

「おいセルジュよ、そんなこと勝手に宣言していいのか? いらぬ世話だろうが、私には、お前が一族を統べる能力があるようには到底見えんぞ」


「チェッ、ひどいなあ」

 と、セルジュはワザとらしく肩をすくめた。

「でもさあ王女様、いまオレがヘクターに言ったことは本当だぜ。後ろの騎兵隊、オレの合図一つで攻撃する手はずになってんだよね。みんな一刻も早く戦いたくて、今か今かとウズウズして待っているんだ。――おっとそっちの兄ちゃん」


 そう言ってセルジュは僕をじろりと見た。

 自然と視線がぶつかる。


 ――邪悪。


 瞬間、背筋がゾクリとした。


 錯覚ではない。

 セルジュの目の中に、今まで見たことのないような悪魔の光が宿っているのを、僕は確かに感じたのだ。


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