(16)

 そしてついに、アリスがセフィーゼの前に立った。

 ロードラント王の名代とイーザの族長――

 大きな格の違いがあるとはいえ、リーダー同士の直接対決というわけだ。


 だが、最初に口を開いたのはヘクターだった。


「アリス王女、初めてお目にかかります。私はイーザの将ヘクターと申します。そちらがセフィーゼ。私たちのおさ――団長です」


「自分から出て来るなんて、なかなか感心ね」

 セフィーゼが腕を組み、アリスを見下すように言った。

「にしても、ほーんと噂通りの美しさね。まるでお人形さんみたい」 


 怒り、嫉妬、憎悪に羨望せんぼう――

 セフィーゼの声の中には、さまざまな感情が入り混じっているように聞こえた。


 しかし、それも理解できる部分もある。

 巨大王国ロードラントの第一王女としてすべてを約束されたアリスと、吹けば飛ぶような貧しい地方部族の族長の娘にすぎないセフィーゼ――

 二人は生まれながらして、輝く太陽と青白い月のような対極の位置にいるからだ。


「さて、どうしようかしら、王女様」

 セフィーゼは楽しそうに笑って言った。

「『エアブレード』で苦しまないよう一瞬で首を切り落としてほしい? それともその綺麗な顔を少しずつ切り刻むのも悪くないかな?」


「なんだ、いきなりの処刑宣告か。ずいぶん無礼な奴だな」


 アリスは顔色一つ変えずにそう答えたが――

 見ているこっちは仰天ものだった。

 

 ありえない。

 ありえないだろう、それは!


 なにしろアリスは、イーザ族にとって今後交渉の切り札となる貴重な人質。

 そのアリスをこの場でいきなり殺してしまうなんて――


 もし仮にセフィーゼが後先考えずそのような残酷な振る舞いをすれば、この先ロードラント王国が黙っているはずがない。

 レーモンが言った通り、総力を挙げイーザ族を根絶やしにかかるに違いない。

 その時点で彼らは一巻の終わり、民族滅亡の道をたどることになる。

 

 セフィーゼはそんな悲劇的な結末を迎えても平気なのか?


 いや、それとも……。

 その程度の予想も立てられなくなるくらい、セフィーゼのアリスに対する恨みは深いということなのか?


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