(21)

 次の瞬間「パンッ」と、今までとは少し違った音がした。

 より強化された『ガード』の魔法の壁が、ハイオークの拳を強く跳ね返したその衝撃音だ。


 相当痛かったのか、ハイオークは手首をふるわせ、恐ろしい顔で僕を見下ろしながら「グルルル」と吠えた。

 

 ところが、どんなに怒り狂っても、今のハイオークの力では『ガード』の壁は破れない。

 ようやくそれを理解したのだろう。

 ハイオークは攻撃を中断し、何か武器はないかと周囲を探し始めた。


 ――よし! こちらの計算通りだ。


 ハイオークはすぐに、竜騎士の長槍が少し離れた場所に落ちているのを見つけた。

 そして、その長槍を取ろうと体の向きを変え、足を引きずりながら歩いていった。


 もしあれで強く突き刺されたら、たぶん僕の『ガード』の魔法は破られてしまうだろう。

 けれどそんなことはどうでもよかった。その前に決着をつけるのだから。


 僕は『ガード』の魔力を使うのをめ、リナに向かって大声で叫んだ。


「リナ様、ボウガンを構えてハイオークを狙ってください!!」


 いきなりそんなことを言われて、リナは戸惑ったと思う。

 クロスボウの矢がハイオークに効くわけない。それは誰もが分かり切っていることだからだ。

 が、リナが現実世界と同じ素直な性格ならば、きっと指示に従ってくれる――

 僕はそう信じていた。


 馬上のリナは一瞬困惑した様子だったが、果たしてすぐに、

「は、はい!!!」

 と返事をしてクロスボウを構え、ハイオークに狙いを定めた。


 その時、ハイオークはちょうど地面に落ちていた長槍を拾い上げところだった。

 人語が分かるのだから、当然僕が叫んだ内容は分かっているはず。

 だが、まったく無視している。

 今さらクロスボウの矢がどこに当たっても、ダメージはほとんどないと思っているのだ。 


 ハイオークは長槍を手にしてこちらに向き直ると、緑の血で染まった顔に不気味な笑いを浮かべ、

「……コンドコソコロス」

 と、つぶやきながら、一歩一歩こちらに向かって歩き出した。


 チャンスは今しかない!

 そう判断した僕は、リナに向かって叫んだ。


「リナ様、撃ってください!!」


「えいっ!」

 リナはクロスボウをハイオーク目がけて二発連射した。


 一見無意味な攻撃。

 ハイオークの体にどんな場所に命中しても、矢は跳ね返されてしまうだろう。


 しかし―― 


『エイム!』


 僕はあらん限りの魔力を込め、そう唱えた。

 魔法の効果を受けて、二本の矢がほんの一瞬光る。    


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る