(17)

 ――敵はエリックかマティアスか?


 悩むまでもない。

 ハイオークにとってより脅威なのは、さっき力比べで負けそうになった赤銅しゃくどう色の鎧を着た男、マティアスに決まっている。

 一方のエリックは、今まで竜騎士の後ろに隠れていたただの兵士で、取るに足らない相手――

 ハイオークは間違いなくそう判断するだろう。


 だが、それこそがエリックの真の狙い。

 さっきエリックがマティアスに送った目くばせは、“ハイオークを倒すための囮になってくれ”という、その合図だったのだ。


 そして作戦は実行された。

 マティアスは馬の手綱を放し、剣を上段に構えハイオークに躍りかかった。


「ガンッ」


 大きな音がした。

 予想通り、ハイオークはマティアスを鉄の拳で迎え撃ったのだ。

 まともにパンチを受けたマティアスの体が、一瞬「く」の字に曲がる。

 しかしその瞬間、ハイオークに大きなすきができた。


「今だ! ユウト!」

 エリックがそこへ突っ込み、大声で叫んだ。


『リープ!!』


 僕がすかさず魔法を唱えた。 

 エリックの体が一瞬淡いグリーンに光る。


「てやぁぁぁぁぁぁ!」


 エリックは魔法の力によって、世界的な棒高跳びの選手みたいに、一気に、そして美しく跳んだ。

 その高さおおよそ7メートル。

 位置もぴったり、狙い通りのハイジャンプといっていい。


「もらった!!!」

 エリックが抜き払った『オーク殺し』の刃が、陽光に反射しキラリと光る。


 マティアスに気を取られていたハイオークに、突如とつじょ目の前に現れたエリックの一撃を避ける余裕はなかった。

 気づいた時には、エリックは『オーク殺し』をハイオークの顔面に突き立てていた。


「やった!!」

 僕はハイオークを見上げ叫んだ。


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