(8)

 と、その時――


「おい、ユウト! 聞いているのか?」

 エリックが僕を呼んだ。


「う、うん」


「おいおい、しっかりしてくれよ。いいか? 今はとにかく慎重に動け。たとえ竜騎士がやられそうになっても余計な手出しはするな」


「だけど……」


「戦ってる間は魔法の支援はいらないと連中が言ってるんだ。何かあってもこっちが気に病む必要はねえよ」


 それはマティアスからの申し出だった。

 戦闘中勝手な行動を取られると、騎士同士の連携が乱れて逆効果と言うのだ。

 だがエリック曰く、それは彼らの建前で本音は違うらしい。


「要するに連中、俺たち下っ端の手を借りるのはプライドが許さないんだ。戦闘中助けてもらうのは耐えがたい屈辱らしいぜ」


「でも後で傷の回復はしてくれって……」


「それは戦闘行為に入らないっていう理屈なんだろう。まったく身勝手な話だぜ。まあ、お前は俺が合図したらその『リープ』の魔法を唱えてくれたらそれでいい。その時までは後ろで控えてろ」

 

『リープ』を唱えエリックをハイオークの頭上に飛ばすには、奴にかなり接近しなければならない。

 その時が、僕とリナにとって一番危険な瞬間だ。 


 もちろんエリックは、それよりもっとずっと危ないのだが――



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ハイオークと竜騎士団との戦いが今、始まろうとしている。


 ハイオークは、ゆうに100キロはありそうな鉄球付きの戦斧を左手で軽々と持ち上げ、それに右手を添えた。

 わずかに前傾ぜんけい姿勢を取り、ゆっくりと戦斧を構える。


 来るか――!?

 そう思った瞬間。


 ハイオークは「ウオォ」と低く唸り地面を蹴りあげ、こちらに向かって三メートルほど一気に跳んだ。

 巨体に似合わない、驚くべき速さだ。


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