(7)
ハイオークは竜騎士に取り囲まれても、まったく動ずる様子はなかった。
その場に仁王立ちしたまま、白く濁った眼でじろりとこちらを見下ろし、牙だらけの口を開く。
「キサマラ……ミンナ……コロス……」
聞いただけで背筋がゾクッとするような、低く不気味な声。
この怪物、コボルトとは違い人語が使えるのだ。
エリックの言う通り、知能はかなり高いのだろう。
ハイオークが一歩前にずしりと踏み出す。
それだけで凄まじい威圧感だ。
竜騎士たちはその強い「気」に押されるように、馬を少し後退させた。
周囲のコボルト兵たちも攻撃を止め、こちらを
辺りには風一つ吹いていない。空気がビリビリと張りつめる。
「思った通り、かなりやばそうな相手だな」
エリックは額の汗をぬぐった。
剣士としてかなりの腕前を持つエリックでさえそう思うのだ。
そんな相手に対し、竜騎士たちは一体どうやって戦うのだろう?
「リナ様、奴に安易に近づかないで下さいよ。どんな攻撃を仕掛けてくるかわかったもんじゃねえ」
エリックがハイオークの動きを警戒しながら、リナに声をかけた。
「は、はい」
そう答えるリナの体は大きく震えている。
振動が僕の体にも伝わるぐらいだ。
「リナ様、安心してください。僕が魔法で絶対に守りますから」
戦闘経験ゼロの自分が言っても、気休めにしかならないかもしれない。
正直、僕も怖くて仕方ないのだ。
が、今は虚勢を張ってでもリナを安心させたかった。
「ありがとう。ユウトさん」
リナが後ろを振り向き、無理に笑顔を作る。
その大きな瞳にうっすらと涙を浮かべていた。
こんな化け物と戦うのだから、泣きたくなるのも当然だ。
――だいたい何でリナみたいな女の子まで、戦争に駆り出されなきゃいけないんだ?
彼女の涙を見てそう思った。
アリスの場合は、まあわかる。
病床に伏せる王の代わりに、ロードラント軍を率いて参戦したというはっきりとした理由があるのだから。
しかしリナは何のために? 単にアリスのお付きとして従軍したのだろうか?
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