(2)

 一方アリスは、レーモンと竜騎士が着々と撤退準備を進めている間、ティルファを質問攻めにしていた。


「ティルファ、いったい何があったのだ!!」


「そんなことより、アリス様、一刻も早くここからお逃げを――」


「いや、まだ周囲に異変はない。それに兵士たちが撤退する準備も整ってはいない。だから先に事情を話せ!」


 アリスはティルファが相手でも一歩も譲らない。

 その点、揺るぎない王女様だ。


「……わかりました」

 ティルファもあきらめてうなずく。


「第一、二軍団の兵はどうしたのだ? 彼らはいったいどこにいる?」


「それは――なんと申し開きすればよいのか……。完全にはかられました」

 ティルファが悔しそうに言った。

「我々は敵の術中に陥ったのです」


「どういうことだ? 先日わが軍は連戦連勝、勝利は間近だと報告を受けたばかりだぞ」


「それが敵の罠でした。三日ほど前、先行する第一軍がイーザの主力の騎馬隊と交戦しました。第一軍はこれを撃破し敵は敗走、エルデン将軍が追撃を命じました。そうして翌日、再び第一軍がイーザと接触し完膚なきまでこれを蹴散らしたのです」


 話を続けるティルファの体は、小刻みに震えていた。


「これを好機と捉えたエルデン将軍は我々第二軍と呼応し、退却するイーザの兵を追って一気に全軍でイーザの拠点になだれ込んだのです。しかし――」


「しかし――?」


「敗走していたはずのイーザ騎兵たちがきびすを返し、こちらに突撃してくるではありませんか。当然、我々はそれを敵の最後のあがきと思い応戦しました。ところが実は最初に敗走したイーザ兵は囮で、奴らは主力を後方に温存していたのです」


 敵の陽動にまんまとひっかかったというわけか。

 そういえば昔、そんな戦術を三国志かなんかで読んだっけ。

 攻撃側が強ければ強いほど、陥りやすい罠だ。


「その上イーザは谷底を囲むように巧みに陣地を敷いていました。知らぬ間に我々はその中へ中へと誘い込まれたのです。

 やつらの装備はごく簡素――しかしその分動きは驚くほど身軽でした。我々重装の騎兵は前後左右から攻撃を受け、分断され、ろくに動くことも出来ずないまま敗れ去りました」


「なんと無様な。ロードラントの竜騎士ともあろうものが!」

 アリスの美しい顔が怒りに満ち、白い頬がうっすらと赤くなる。


「……混戦の中でエルデン将軍は流れ矢に当たって命を落とされました」


「なに!? エルデンが死んだだと!」

 アリスはしばし絶句した。


「……あの歴戦の勇者が? ゴートと勇猛に戦ったあのエルデンが?」


「……はい」


「では第二軍のヴィクトル将軍は? お前の父のヴィクトルはどうした!!」


 その名前を聞いて、ティルファの目に涙が光った。

 そこでもう、ヴィクトル将軍の運命は予想がついた。


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