(19)

 さっきは誰にも知られず、また注目もされず『スキャン』の呪文を唱えることができた。

 しかし今はアリスやリナ、それにレーモンなど衆人環視の中で魔法を使おうとしている。


 ――そこだ!


 思えば現実世界の自分も、人前で何かをする時、緊張しすぎて失敗することが多々あった。 

 つまり今、誰の目を気にせず落ち着いて魔法を唱えれば……。 

 

 僕は一度深く深呼吸し、目をつぶった。

 アリス、リナ、レーモン――魔法クリアの対象者であるティルファ以外の、周囲にいる人の存在を消す。


 自分はこの人を救う。

 回復役ヒーラーとして、絶対に助ける。


 そう意識しながら、僕は右手をティルファの上にかざす。


『クリア!』


 途端に、美しい緑の光が手の平から溢れだし、ティルファの体を包み込む。


「おお……」


 周囲から自然と声が上がる。


 やった! 上手くいった。

 土気色をしていたティルファの肌に、みるみる血の気が戻ってきた。


 よし、ここは一気に――


『リカバー!』


 今度は白い光が、ティルファを包み込む。

 さっきマリアが発した『リカバー』の光よりずっと強い。


「アリスさま。ティルファの傷口がどんどんふさがっていきます!!」

 リナがうれしそうに叫んだ。


「ユウト、すごいぞ。すごい魔法だ」

 アリスはまるで子供のようにはしゃぐ。


 シスターマリアは信じられない、といった風に目を丸くしている。

 そしてレーモンでさえも、一瞬驚きの表情を浮かべた。


 ……もっとも彼だけは、すぐに元の偏屈そうな老将の顔に戻ってしまったが。


 

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