(18)

 僕は神経を集中させ、ティルファの傷口に手を掲げ『クリア!』と唱えた。


 ………………

 …………

 ……


 あれ? おかしい。

 さっき『スキャン』の魔法を使ったときみたいにうまくいかない。


 というかまったく魔法が発動しない。

 おいおい……これじゃあ間抜けなポーズを取って叫ぶ、単なる恥ずかしい人だ。


 アリスたちに加え、何事かと兵士たちも周囲に集まり出した。

 これは焦る。

 顔が赤くなって、冷汗が出てくるのが自分でもわかった。


 まずい。まずいぞ。

 なぜ唱えることができない?


「どうしたユウト? 何をしている?」

 アリスはしびれを切らして言った。

「なにもタダで治せとはいわんぞ。もしティルファを救うがことができたら褒美ほうびは思いのままだ。私にできることなら何でも望みをかなえてやる。それともお前が治癒魔法を使えるというのは嘘だったのか?」


「も、もう少しお持ち下さい」


 自然と声が上ずってしまう。

 このまま治すことができなかったら、ちょっとシャレにならない。


「やはり貴様のような一兵士に魔法が使えるわけないのだ」

 レーモンが馬鹿にしたように言い放つ。


 ……嫌な感じだ。

 言葉に中にとげある。

 身分の低い者に対する侮蔑ぶべつの念を隠そうともしない。


 しかし――


「叔父様! 静かに」

 リナがキッとレーモンをにらんだ。

「ユウトさんは今、ティルファさんを救おうと必死に集中しているのです。マリアさんも言ったではないですか。治癒ちゆ魔法には相当な精神力を使うと」


「……むむ」


「それに叔父様、ティルファさんを早く治さないと軍も動かせませんよ」


「………………」

 レーモンはリナに言い負かせられ、黙ってしまった。


 それにしてもリナが庇ってくれるとは!

 彼女の優しさは、こちらの世界でも変わらないのだ。


 その心遣いに励まされ、多少気を取り直したところで、突然――


「またまたお困りの様ね」


 ヘッドセットの向うからセリカが聞こえてきた。

 そういえば回線を切断するのを忘れていた。

 通話状態がずっと続いていたのだ。


「みんなにバレちゃうから黙って聞いて。いい? さっきはなぜすぐに呪文を発動させることができたのか。今はなぜそれができないのか。その違いを考えなさい」

 

 違い?

 うーん、違いってなんだ。


 必死に考えを巡らし――

 頭にぱっと閃くものがあった。


 そうか、分かった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る