(16)

 きらりと光る剣の刃を見て、僕はひやひやした。

 レーモンはただ脅しているのではない。

 もしこのままアリスやティルファに近づけば、レーモンは容赦なく僕を叩き切るだろう。


 エリックが言っていた通り、彼ら騎士たちにとって何よりも優先するのはアリスの安全。

 理不尽だが、この世界では正しい行いなのだ。


 悔しい。

 せっかく白魔法の力を身に付けたというのに、ひん死の人を目の前にしてどうすることもできないのか――


「おいおいユウト!」

 エリックが僕の肩をつかみ、かばうように前へ出た。

「おめーなあにやってんだよ」


「エリック……」


「へへ、すみませんレーモン様。身分もわきまえず出過ぎたまねをして。なにしろこいつ、田舎から出てきたばかりなもんで」   

 エリックは必死にフォローしてくれる。

「後でよーく言い聞かせますので、今回だけはお見逃しを」


「……うむ」


 レーモンはうなずいて剣をさやに納めた。


「確かに今、味方同士で争っている場合ではない。二人ともさっさと下がれ」


 よし、これでいきなり切り捨てられる心配はなくなった。

 ありがとう、エリック。


 僕はエリックに感謝しつつ、一か八かの賭けに出ることにした。

 息を吸い込み、アリスに聞こえるよう大声を出す。


「ティルファ様は毒に侵されているのです! 私なら、その毒を取り除くことができます!!」


 いったい自分の中のどこにそんな勇気があったのか――

 どうやら僕の声はアリスに届いたようだ。


「なんだと!!」


 アリスは振り向き、目を見開いた。

 そして、すごい勢いでこちらに近づいてくる。


「アリス様、お待ちください――」

 レーモンが慌ててアリスを止めようとするが、


「どけっ!」

 と、アリスはレーモンの手をはねのけ、ズカズカ歩き僕の前まで来た。


「いま叫んだのはお前だな?」


「は、はい」


「おい!!」

 アリスは僕の両肩をガシッとつかみ、ゆさゆさ揺さぶり大声を出す。

「ティルファ助けられるというのは本当なんだな? 本当なんだな?」


 痛てて……。

 思いがけない強い力に、僕は目を白黒させながら答えた。


「え、ええ。僕の魔法なら大丈夫、だと思います」


「嘘ならばただではおかぬぞ」


「分かっています。で、でも急がないと間に合いません」


 そう言いつつも、果たして本当に自分にできるのだろうか、と一瞬頭に不安がよぎる。

 が、もはや引っ込みはつかない。


「お前、名は何と言う?」


「ユウトです」


「よし。ユウト、来い!」


 アリスは僕の手を握ると、ぐいぐいとティルファの方へ引っ張っていく。

 皮膚に食い込むアリスの手の感触は、とても冷たい。


「アリス様、何を――! ダメです! いけません!」

 レーモンが必死に叫んでいる。


 だがアリスはそんなこと歯牙しがにもかけない。

 さすがはロードラントの王女様。

 自分を絶対に押し通すのだ。


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