(9)
僕は勇気を出して、エリックに色々と質問してみることにした。
この人の場合、年上だろうけどため口で良さそうだ。
「あ、あの、エリックさん。ちょっと聞いていい?」
「“さん”づけなんかしなくて、呼び捨てでいいぜ。――で、なんだ?」
「このロードラント軍はどこに向かっているの? アリス様を護衛しているのはわかるんだけど」
「はあ?」
エリックは口をポカンと開けた。
「あの……よく状況がわからないんだ」
と、僕は正直に言った。
「おめー、頭大丈夫か? いくらなんでもそれはないぜ。これから戦争しようっていうのに、敵の名前も知らないなんてありえんだろう」
エリックはあきれ返っている。
「頼む、教えて」
「まったくどうしようもない奴がいたもんだなあ……。あのな、我がロードラント王国軍はな、隣のファリア共和国との国境あたりで反乱を起こしたイーザ族っつう辺境の蛮族をやっつけに行くんだ。
連中ファリアの領土の一部を占拠したうえ、そこを拠点に今度はロードラントに矛先を向けやがった。ファリアは同盟国だから、まあ助太刀の意味もあるわな」
「なるほど」
「俺もよく知らねえけど、ファリア共和国は今、内部で色々争っているらしくてな、小規模な反乱すら鎮圧できない状態らしいぜ。
しかしおめー、敵の名前すら知らんとはなあ。さては徴兵組か?」
「う、うん」
適当に話を合わせる。
「やっぱりな。無理やり引っ張られてきたんじゃあ、しょうがねーかもな」
「あの、もう一つ聞きたいんだけど」
「いいよ、何でも答えてやる」
「なんでそんな地方の小さな反乱をわざわざ、あの――王女様が出向くの?」
当然の疑問だろう。
エリックはうなずいて答えた。
「ああそれはな、ロードラント王国は王が先陣を切って敵を打ち負かすってのが昔からの伝統なんだよ。王が真っ先に戦場を駆け、それにみんなが付いて行くってわけ」
「へえ、王様って意外と大へんなんだね」
「歴代の王はそれを忠実に守ってきたんだよ――とまあこれは建前だけどな」
エリックがニヤリとした。
「実際はな、王は最初は安全地帯にいて軍の本体が敵を徹底的にやっつけたあと、最後に華々しくお出ましになる、いつもそんな感じなんだ。そりゃ王の身になんかあったら一大事だからしょうがないかもしれねえけど、付き合う俺らはバカみたいだよな」
なるほど。
ようやく事情が呑み込めてきた。
「じゃあこの遠征もそうなの?」
「そうだ。ルドルフ王は来られなくて、アリス王女はその
「もしかして、みんな緊張感がないのも……」
「ああ。イーザなんてしょせん雑魚、今頃もう先鋒の第一軍、主力の第二軍でボコボコになってるだろうよ。もう勝ちは決まっているから、我らアリス王女護衛軍はダレきっちゃってるんだ」
「はー、そういうことだったんだ」
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