(7)

「アリス様。レーモン叔父さまはアリスさまのことを心配しているのですわ」

 と、リナがアリスをたしなめる。

「レーモン叔父様はローラント随一の騎士であることはアリス様もご存じでしょう。戦場でこれほど頼りになる方はおりませんわ」


「なんだ、リナもレーモンの味方なのか」

 アリスはぷっと頬をふくらました。

「叔父様も――」


 今度は、リナはレーモンに向かって言った。


「兜ぐらいよいではありませんか。敵はまだ遠いですし、なにしろこの暑さ、アリス様のおっしゃることにも一理ありますわ」


 リナの言うとおり、陽が高くなるにつれ気温が急に上がっていた。

 歩いているだけで額から自然と汗がにじみ出てくる。

 それでも僕たち兵士が身に付けているチェーンメイルは、鎖の間から空気が抜けるからまだマシだ。

 アリスが身に付けているプレートメイルでは、中が蒸れてしょうがないだろう。


 だが、レーモンはリナをギロリとにらみ、

「リナ、お前は黙っていなさい!」

 と、叱りつけた。


「はい……」

 リナはしゅんとして、口を閉じる。


「アリス様、周囲をご覧ください」

 レーモンがアリスに言った。

「アリス様を見習ってしまったのか、兜を脱いでしまった兵がたくさんおります」


「よいよい。好きにさせておけ」


「なりません。これは軍規の乱れにつながる、由々しき事態ですぞ」


「叔父様、待ってください」

 リナが懲りずにまた口をはさむ。

「戦いが始まる前に暑さで疲れ切ってしまっては、元も子もないのでは?」


「そうだ、リナの言う通りだ。兵はみな緊張を強いられ疲れ始めている。多少のことは大目に見てやれ」

 と、加勢をしてもらったアリスが続ける。


 レーモンはため息をつき、

「アリス様がそこまで言われるのでは仕方ありませぬな。しかしそのうちに、必ずかぶっていただきます」

 と言って、馬を後方に引きアリスから離れた。


「助かったよ、リナ」

 アリスがやれやれといった感じに笑う。


「でもアリス様――アリス様はこれが初めての戦いなのですから、いざという時には、レーモン叔父様の言うことに耳を傾けなければなりませんわ。出陣の前、国王さまがおっしゃられたように」


「ああ、わかっている」

 アリスはリナの忠告に素直にうなずいた。


 二人は本当に親しそうだ。

 身分の違いは気にしない、同年代の仲の良い友達といった感じなのだろう。


 と、その時――


「おい、おめー」


「え?」


 後ろからいきなり誰かに話しかけられた。

    

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