(5)

 覚悟を決めた僕は、そのまま行軍を続けることにした。

 だが、目線はどうしても白馬の少女を追ってしまう。


 なにしろ少女はまばゆい輝きに満ちている。

 強烈なオーラ――今まで感じたことない高貴な光を全身から発していて、どうしても目がそっちに吸い寄せられてしまうのだ。 


 そして僕は確信した。

 きっと彼女はロードラント王国の王女に違いない、と。


 その時だった。

「アリス様!!」と、呼びかけながら、一人の騎士が白馬の少女に近づいた。

 立派な白いひげを生やした、かなり年配の騎士だ。


 へえー、

 あの女の子、アリスと言うのか。

 もし本当に彼女が王女様だとしたら……。


 “王女アリス”


 うん。

 まさにぴったりの名前だ。


 などと考えていると――


「なんだレーモン」

 アリス、と呼ばれたその少女は、老騎士に対して不機嫌そうに答えた。 


「今、我々はすでに敵地に入っております。どうかかぶとをお被りください」

 そう言って、老騎士レーモンは美しい銀の兜を差し出した。


「必要ない」

 が、アリスは兜を一瞥いちべつして首を振った。


「そんな大そうなモノ被ったら暑くてかなわん。そのうえ視界が遮られて軍全体を見渡せぬ。指揮を執るのに差し障るではないか」


「――しかし」


「くどい! 窮屈きゅうくつな宮廷からようやく出られたと思ったらこれだ。まったく父王も余計な者をつけたものだ」


 アリスはぷいと横を向いてしまった。

 かなりご機嫌斜めのようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る