(4)

 おいおい……。


 セリカに突き放されてしまった僕は、仕方なく周囲をもう一度見回してみた。

 相変わらず大勢の兵士たちが列を組んで、道をぞろぞろ歩いている。


 そこで、ざっと人数を計算してみた。

 うーん……縦に20列、横には――多すぎてちょっと数えきれないが、ずらりと100列ぐらいは続いているようだ。

 ということは、歩兵だけで二千人。

 かなりの規模だ。


 だが、兵士たちは全体的に緊張感に欠けていた。

 どうもだらけた感じがして、ところどころ列が乱れてしまっているのだ。

 士気はかなり低いっぽい。


 一方、それとは対照的なのが軍の中心にいる馬に乗った騎士たちだ。

 彼らは全員、竜をかたどった兜と鎧を身に付け、手には長槍ロングスピアを持っている。

 いかにも精鋭ぞろいといった感じで、威風堂々いふうどうどうと馬を進めていた。


 そして、その中でひときわ目立っているのが、騎士の一人が掲げる巨大な戦旗だ。


 旗は濃紺に染められ、金のわし刺繍ししゅうが縫い付けられており、その下には見知らぬ異国の文字が――

 

 いや、読める。


 僕はなぜか、そこに書かれている『ロードラント=キングダム』という文字列が読めた。

 そういえばさっき兵士に怒られた時、その言葉も自然に理解できたっけ。

 日本語ではないのに、考えてみれば不思議だ。

 

 ああ、そうか。

 セリカが言った“この世界で生き延びるだけの力”とは、言語や読み書きの能力も含まれているのだ。


 これならいけるかもしれない。

 と、僕は決心した。

 一度は死のうとしたんだから、自分にもう怖いものなんてないはず。


 だから、とにかく前へ進もう。

 この異世界で人生を根本からやり直すのだ。

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