(2)

 本当に、本当に異世界に来たのか?


 そういえば、頭上に広がる澄んだ青空も、はるか彼方に見える切り立った山々も、道端に生えている見知らぬ草木ですら、何もかもが美しすぎる。

 その上、登場人物は、中世の西洋風の兵士とそれを指揮する美しい少女ときている。


 まるで夢を見ているよう――

 なのだが、それにしては五感で感じるものすべてがあまりにリアルなのだ。


 そんなファンタジーな光景をボーっと見とれていると、腰のベルトに付いている革袋が震えた。

 この振動、お馴染みのスマートホンのバイブレーションだ。


 僕は盾の持ち手から手を離し、そっと革袋を探った。

 あった。

 スマートホンと、ワイヤレスのヘッドセットイヤホンが手に触れた。


 袋からこっそりイヤホンを取り出し、右耳に付ける。

 イヤホンは超小型なので、兜の耳当ての下にうまく隠れた。

 これなら他の兵士には気づかれないだろう。


 さっそく通話キーを押してみる。

 一瞬があって――


「どう有川君? はるばる異世界に転移した気分は?」


 この世界に僕を送り込んだ張本人、清家せいけセリカの澄んだ声が耳に流れこんできた。


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