第三章 異世界転移

(1)

 眠りから覚めると、目の前に、金色の髪と雪色の肌を持つ一人の少女がいた。

 年齢はたぶん僕と同じ15、6だろうか? 

 少女は白馬に乗り、銀の鎧と濃紺のマントを身に付け、見事な装飾がほどこされた剣を腰に差している。


 けれど兜は被っていない。

 だから風が吹くたびに少女の長い髪はキラキラと空に舞って、それが僕の目にやけにまぶしく映った。


 少女は馬上から、うれいを帯びた青い瞳で、はるか遠くを見つめている。

 その姿はあまりに可憐で勇ましく、あたかも古代神話の戦いの女神ヴァルキリーの化身のようにも思えた。


 少女を眺めながら、僕はぼんやりと考える。


 誰だろう?

 以前、どこかで会ったことがある気がする。


 ……いや、そんなはずない。

 こんな綺麗な、金髪碧眼きんぱつへきがんの女の子の知り合いなんているはずないのだから。


 うーん。

 でも、やっぱり見たことあるような――


 確かにどこかで……

 …………

 ……


 ダメだ。

 どうしても思い出せない。


 と、その時――


「おい、しっかり歩け!」


 突然、後ろから誰かに怒鳴られた。


「ボヤボヤするな。後がつかえてるぞ!」


 振り向くと、いかつい顔をした兵士が僕をにらんでいた。

 手には長い槍と大きな盾を持っている。どう見ても本物だ。  

 はっきり言って、怖い。


「まったくこれだから新兵は……」

 と、その兵士は苦々しげにつぶやいた。


 ――え、新兵?


 そこで初めて、僕は自分も槍と盾を持っていることに気付いた。

 いや、それだけではない。

 頭には鋼の兜、体には鎖帷子チェーンメイルを装備しているではないか。


 ――まさか!


 驚いてまわりを見回してみると、僕は武装した大勢の兵士の中に立っていた。

 兵士たちのほとんどは徒歩――つまり歩兵だが、隊列の中心に五十ほど騎兵が配置されていた。

 そしてその先頭に立ち馬を進めているのが、さっきの白馬の少女なのだ。


 大きな平原の真ん中を通る一本道を行くこの軍隊は、白馬の少女を護衛する任務にあたっており、どうやら僕はその下っ端兵士の一員らしかった。



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