(2)

「どうせ死ぬつもりだったんでしょ? そこまでの覚悟があるのなら、異世界に行って人生をやり直すのよ」

 と、セリカは真顔で言う。


「は?」


 いきなり何を言い出すんだこの人。

 頭おかしい……?

 僕は悲しむのも忘れ、ポカンとしてセリカの顔を見上げた。


「実はね、私は人を、その人が望むような世界に送り込むことができるの」


「へえ……」


「なあに、その顔。ま、信じられないのは無理ないけど。ね、有川君、平行世界パラレルワールドって聞いたことある?」


「え?」


「今、私たちが暮らしているこの世界は、地球という星が誕生し生物が生まれ、人に進化していった過程において、選択に選択を重ねた末の、無数に枝分かれしたうちのほんの一つの結果でしかないの」


「まあ、そういう考え方もあるのは知ってるけど……」


「あの時こうしていたら、偶然あんなことが起きなければ――この世界は今とはまったく別の世界になっていたかもしれない。もしかしてもしかしたら、昨日彗星が地球にぶつかって人類が滅びていた可能性だってゼロとはいえないわ」


「そんな極端な……」


「じゃあもっと身近な例え。たとえば――もっと前に有川君が七瀬さんに告白し、二人が恋人になっていたら、きょう有川君が自殺を試みることなんてなかったし、この部屋で私と紅茶を飲むことだってなかったわけでしょう?」


「それはそうかもしれないけど」


「つまりね、平行世界パラレルワールドは、実は私たちのすぐそばに実在するってことなのよ」


「ええ……」

 いくらなんでも強引すぎる。そんな話をいきなり信じろという方が無理だ。

「それはちょっと飛躍ひやくしすぎじゃ……」


「飛躍じゃない!」


 セリカはテーブルに両手をドンッと置き、顔を僕にグッと近づけた。


「それらの異世界は確かに存在するの。そして私は、そのIFイフの世界に自由に人を送り込むことができる。――その人が望むどんな世界にも!! いわば異空間転送能力。それが私の力よ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る