第二章 運命のゲーム

(1)

 それから僕は、時間をかけて今まで起きたことをすべて話した。

 その間、セリカはずっと黙って話を聞いてくれた。


 僕がすべて吐き出したところで、セリカはおもむろに口を開いた。


「そういうことだったの。なかなか厳しい状況ね。――今、わたしが有川君に優しい言葉をかけてあげることは簡単。でも、たぶんそれじゃあなたを救うことはできない」


 それはその通りだ。

 少しの間なぐさめられても、家に帰ればあっという間につらい現実に引き戻される。

 そしてまた自分に絶望するだろう。


「はっきり言うわ。今のままで有川君が七瀬さんを取り戻すことは、ほとんど不可能でしょうね」


「………………」


「佐々木龍吾りゅうご先輩――確かに彼はあらゆる面であなたより秀でている。私が見ても格好いいと思うもの。二人はお似合のカップルよ」


 ひどい。

 事実とはいえ、いくらなんでも直球すぎる。

 ただでさえ弱っている心臓を、針金でぐるぐるに巻かれ強く締め付けられたような感じだ。


「でもね――」

 と、セリカは続けた。

「七瀬さんが有川君から離れて行った本当の原因は、佐々木先輩ではないと思う」


「え?」


「あなたは何も行動しなかった。あなたはあまりにも臆病だった。それが根本の原因よ。ねえ、そんなにも七瀬さんのことを想っていたのに、今までどうして告白しなかったの? 機会はいくらでもあったでしょう?」


 セリカの言葉を聞いて、目頭が熱くなってきた。

 どうしても涙が抑えきれないのだ。


「ほんの少しの勇気で、道は開けたかもしれないのに、ね」


「その通りだよ」

 消えりそうな声で、僕は言った。

「こうなったのは当然の結果なんだ……」


 理奈に対し何もできなかった自分。

 幼ななじみと言う地位に甘えていた自分。 


 悔しかった。

 情けなくて本気で死にたかった。


 膝の上でぎゅっと握ったこぶしに、涙がぽとりと落ちる。 


「さてと――」

 セリカは立ち上がって手を後ろで組み、ゆっくりと部屋の中を歩き出した。

「あなたを救うにはどうしたらいいか……」


「もういいよ」


 すべて告白してみたところで気持ちは楽にはならない。

 むしろ現実を突きつけられ、余計につらくなってしまった。


「いいえ、ここまで事情を知ってしまって引き下がれないわ」


「いいから、もう止めてくれ!」


「静かに……」 


 セリカは突然くるりと振り向き、突拍子もないことを言った。


「有川君――いっそ死んだ気になって、異世界に行ってみない?」  


 

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