(7)

 清家セリカという意外な登場人物に、僕はドギマギしながら質問を返した。


「せ、清家さんこそ、どうしてこんなところに?」


「学校の帰り道」


 セリカはそっけなく答える。

 そういえば彼女もまだ制服姿だ。


「でも、下校時間からずいぶん時間経ってると思うけど……」


「帰り道に少しドライブしてたの。それで、車の窓から有川君が踏切の前でぼうっと立ってるのが見えたから、なんだか気になって」


 そう言われてみれば確かに、向うの道路わきに、大きな黒塗りの外車が停めてあるのが見える。

 つまり、運転手付きということなのか。

 彼女の実家がお金持ちと言う噂は、どうやら本当らしい。


「そんな事どうでもいいでしょう。それより有川君、今、電車に飛び込もうとしてなかった?」


「………………」


「やっぱりそうなんだ。有川君、このごろずっと学校に来てなかったから気になってたの。そしたら案の定」


「え?」


 ありえない。

 あの清家セリカが自分のことを気に留めてくれていたなんて。

 

 その時、電車が轟音を立てながら踏切を通過した。

 自然に二人の会話が遮られる。


「ここじゃダメね。こっちに来て」

 セリカは僕の手をギュッとにぎり、強引に歩き出す。


 いきなりの手つなぎに、僕はドキリとした。

 が、セリカの手はとても冷たく、まるで氷にでも触っているような感触だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 黒塗りの外車の前に来ると、セリカは「さあ、乗って」と言い、僕を無理やり車の後部座席に押し込んだ。

 続いてセリカが僕の横に乗り込み、ドアを閉める。

 途端に車はスッと静かに加速し、夜の街を走り出した。


「あの……清家さん、なんで僕のことなんか気にしてくれるの?」


 車が出発してすぐ、僕はセリカに質問した。

 こんな自分を構ってくれる人がこの世に存在するなんて、どうしても信じられなかったからだ。


「なに言ってるの。今、まさに死のうとしている同級生を放っておけるわけないでしょう」

 セリカは肩をすくめた。

「ねえ、私でよかったら、何を悩んでいるのか聞かせて?」


「それは、その……」


 こんな美少女クラスメイトにいきなり悩みを告白し、自分の弱みをすべて晒け出す?

 ――バカな、ありえない!

 人見知りの激しい僕に、そんなことできるはずがない。


「絶対誰にも言わないから、ね」


「いや、いいんだ本当に。それより迷惑かけてごめん。いいから適当な場所で降ろしてよ、歩いて帰るから」


「それはダメ!」

 セリカが強い口調で言った。

「このまま帰したら、また自殺しようとするかもしれないじゃない」


「………………」


 僕はそれ以上、何も言い返せなかった。

 死にたい、という気持ちはまだ自分の中に強く残っていたからだ。


      

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