13話 妹じゃないって知ってた?
ヤマ兄は何をしているかわからず、タカ兄も帰ってこず。
今晩もキョウと伊達政宗のDVDを見ていた。
「ぐおお。小次郎。殺されちゃったね。あーちゃん」
「ぐぬぬぬ……政宗、成敗しちゃったね」
政宗が弟である小次郎を毒殺疑惑が浮上した為、殺してしまった。
2人で「ご慈悲を!」と叫んだけれど、届く訳も無く、キョウはティッシュを片手に涙をためていた。
戦国時代とは非常だ。
弟なのに、小さな頃から知ってるのに、成敗するとは。
「……俺、現代に産まれて良かった」
「……あたしもじゃ」
「政宗がタカイチと俺だったらさ、じわじわと俺を殺すよね、絶対。ばっさりじゃないよね」
「間違いないのう」
「だよねだよね……爪をはがし、指を一本一本折って、全裸にして殴って、半殺しのまま数日放置して……それから……」
「う…ぬっ」
自分に重ねてリアルに想像したのか、キョウはさらに涙目になる。
感情移入しやすいタイプだから、結構なんでも泣いたりするけど、妄想癖も激しいらしく自分の最期を想像して泣いたと悟った。
「現代で良かったね」
「本当、兄妹が仲良しで良かったよ」
兄妹か。
そういえば、キョウはあたしがお母さんの子じゃないって聞いてたりするのかな。
キョウだったら平気かな。この話をしてみても。この流れでサラッと聞いてみようと思いついた。
「あーちゃん、どうしたの?」
あたしがじろじろ見すぎたせいか、キョウが不思議そうに目を丸くした。
「……キョウさ」
「うん」
「あたしがお母さんの子じゃないって知ってた?」
「へっ?」
「へっ? て?」
「……しししししし、知らない」
思いきり目を逸らすと、挙動不審を絵に描いたみたいに慌てだした。
急に本を取り出して逆さで読み始める傍ら、テレビのリモコンのボタンを連打してる。
音が上がったり、下がったりして耳触りだ。
「知ってるでしょ?」
「……知らないもん」
「吐け」
「知らない……」
キョウの身体に馬乗りになって、腕を回し首を絞めた。
「ぐふっ。あ……あきなす」
「んぬっ?」
「吐きます!」
「よしっ」と、手の力を緩めた。
ごほごほとむせきってから、知ってたよ、とキョウは言った。
「でもあーちゃん。俺が知ってるのは、あーちゃんがお母さんからその話をされていたところをたまたま聞いちゃったからだよ?」
「えっ?」
「あの日さ、ラジオ体操行くから早起きしたでしょ? あの時、廊下にいたら、2人の会話が聞こえたの。それだけだよ」
「なんだ。そっか。じゃあ、やっぱりみんなには、隠してたんだ」
がっかりしたから、あたしは、自分が知らない何かを知ってるのかなって、どこかで期待していたことに気づいた。
思わず役立たずと言いそうになったけど、言ったら落ち込むから言わなかった。
そもそもキョウはなにも悪くないのだけれど。
「うん。俺は直接言われたことない」
「そっか」
「でも、あーちゃんが兄妹じゃなかったら良かったのにな」
「はっ? 今さらあたしを兄妹から追放したいの? 政宗か?」
「だってあーちゃんがさ、兄妹じゃなかったら結婚出来るじゃん」
「あー。そっか。そうだね」
「でしょ?」
名案だろうって顔をされた。合わせて相槌を打ってみたけど、それは何かが間違ってる気がする。
「いやキョウ殿、それは間違っておるぞ」
「なにゆえ?」
「きっと戸籍上は兄妹じゃ。それにキョウと結婚したら老後まで苦労しそうだから嫌じゃ」
「ぬぬ……苦しゅうない、ちこう寄れ」
「殿、いけませぬ」
キョウの手があたしの身体をふざけながら引き寄せたから、両手ではねのけた。
「……でもあーちゃん。残念ながら俺とあーちゃんは兄妹だと思うよ」
「えっ? なんで? ちなみに残念じゃないよ?」
「そう、残念だよね。だってさ、誕生日も血液型も一緒じゃん?」
「残念じゃないけど……うん、一緒だよ」
「残念すぎるけど、誕生日は偽れないよね、きっと。血液型も」
「……確かに。残念ではないけど」
「だから、双子ちゃんだと思うよ。残念無念だね」
「……もう、残念無念でいいよ。じゃあ、キョウがあたしの本当のお兄ちゃん?」
「そうだと思うよ」
「……そうなのか」
でも、そう言われてみると、納得かもしれない。
そんな共通点があるんだもん。
「俺等はみなしごちゃんだったんだね」
「そうみたいだね」
「悲しいね。あーちゃん」
「そうだのう」
「でも、あーちゃん。謎解けたら教えてね?」
「……謎?」
「俺たちの出生の謎」
「……うん」
「……俺等、何処から来たんだろうね」
「お母さんが口を割らないから。消息不明だよ、あたし達の出生は」
ガチャリとドアが静かに開いた。
タカ兄だった。
「なんだ、お前ら?」
「へっ?」
「2人で、なんで泣いてるんだ? きもい」
感極まったらしい。みなしご兄弟の成り立ちを勝手に想像したせいだ。
やっぱり双子だ。キョウも同じ顔をしている。
感情移入と妄想癖は同レベルかもしれない。紅白歌合戦で戦っても奇跡の同点になって勝てないだろう。
「タカイチはいいな……」
呟くとフラフラとキョウは、リビングを出て行ってしまった。なんて打たれ弱い奴なんだ。余計なことを言ってしまった気がした。
だけど、それでも。キョウも気にしてたんだ。それをわかれただけでも、良かったのかな。
ソファにタカ兄はどかっと腰を下ろした。
よく見たらスーツを着ていて、ネクタイを緩めていた。
「タカ兄。今日、なんかあったの? お葬式?」
「馬鹿。こんなネクタイで葬式行く奴がいるか」
「タカ兄なら、やりかねないかと」と言うと、ネクタイでピシリと叩かれた。
「や……やめてくだされ」
兄妹虐めにもほどがある。
それから、「お前らは似てんなー」と呟いた。
「え……?」
「馬鹿丸出しな顔で泣いてるところ」
普段だったら、むっとするところだけれど、今日はなんの反論もできなかった。
キョウとそんな話をしたばかりだからかもしれない。
そして、ちょっと考えた。
冷静に考えればタカ兄は長男だし、あたし達が急に貰われてきたことを覚えていても不思議ではないかもしれないって。
あたし達が双子であることを後押しするようだった。
だけどなんとなく、タカ兄には訊けなかったのだ。
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