27話 よくわからない動揺
「昨日、番号とか聞けたの? どうだったの?」
翌日、好奇心丸出しの顔であたしとサヤコはルリカを待ち構えていた。
ヤマ兄に下手なこと聞いてもバレるかもしれないし。
「番号なんて聞けなかったよー」
「そっかー。ちょっとアサカ教えてあげなよ?」
「ん? あっ、そっか」
「それは……知りたいけど……勝手に聞くのはまずいよ」
「そうなの? ヤマ兄の番号くらいいんじゃない?」とあたしはあっけらかんと答えた。
「それは兄妹だから言えるんだよ。嫌われたくないし……」
「ヤマ兄なんか全然大丈夫だよー。だって……」と言いかけて、言葉が繋げなかった。だって……の続きが出てこなかったのだ。
「……アサカ?」とルリカに顔を覗き込まれた。
「あっ……」
「どうしたの?」
「ううん。じゃあさ、さり気なく番号教えていいか聞いてみるよ?」
「本当にごめんね」
両手を合わせて謝られた。
「ううん」
なんだろう。
あたし、ヤマ兄のことがよくわからない。
例えば、家族を思い浮かべてみる。
お母さんは、自由人で、面倒臭がりで適当。
タカ兄は、冷たくて口が悪い。
キョウは、少し甘えん坊で落ち着きがなくて、お人よし。
ヤマ兄は、喧嘩が強いけど、喧嘩が嫌い。
いや、そういうことじゃない。
……そうそう、一本気だ。
最近そういう人だって思い出した。
……なんで思い出したんだろう。
「そう言えば、昨日ミフネさんに会った」
寝る前に、ヤマ兄にベランダで昨日の報告をした。
「……うん」
「もうちょっとしたら、ヤマ兄に会いに来るかもしれないって」
「そう言ってたのか?」
「うん」
「そうか」
「……ミフネさんのこと前から知ってた?」
「知らないよ」
「本当に?」
「本当」
「ふうーん」
実はヤマ兄とミフネさんは前から知り合いだったのではないかというあたしの予想は、外れだったようだ。
「なんだその不服そうな顔は?」
「べーつーにー」
じゃあ、なんなんだろう。
恨みがあるんじゃなくて、そこら辺のわるおくんみたいに、勝って名前をあげたかっただけなのかな。
「アサは首突っ込むなよ」
「突っ込む気ゼロだよ」
「うろちょろすんなよ」
「しないもん……あっ」
「んっ?」
「ルリカにヤマ兄の番号教えていい?」
「なんでだ?」
眉間にしわを寄せた。
「……ルリカがヤマ兄と仲良くなりたいんだって」
「は?」
「あっ、あれなのじゃ。ほら、あたしの友達の番号知ってたほうが、何かと楽だと悟ったのだ……じゅ、充電なくなったときとか? 拉致られた時とか?」
「あっさり拉致られるなよ」
「どっちみち知って損はないでしょ? 帰りが遅くてとか、携帯、家に忘れたときとか? 大体ルリカといるし?」
「わかった」
しぶしぶと承諾してくれる。
前からヤマ兄に感じていた違和感は、キョウと一緒にいすぎたせいだと思ってた。
キョウと比べて違うところが多いからだと思ってた。
そういうことじゃない気がした。
◇
6月も後半に差し掛かり、季節は梅雨。
雨も何日か振り続き、電車でヤマ兄とキョウとあたしで通学する。
ヤマ兄が、電車に乗るのが嫌な理由がわかった。
たまにわるおに絡まれたりするからだ。だから、面倒臭いんだって。
そんな中、キョウは突然変なことを言いだした。
「……あーちゃん。俺、別れたよ」
キッチンで夕飯の準備をしていると、真面目な顔のキョウが横に立っていた。
「はっ?」
「俺、別れたんだ」
「はっ? 何番目と?」
「全部」
手が滑って、包丁を落としそうになった。慌てて、まな板の上に置きなおす。
「……なんで? ていうか、振られたの? 一気に4人に?」
「違う。振ったの」
キョウの顔をよく見ると、引っかき傷があった。
女子にやられたのかもしれない。
あとはどこかの猫しか思い浮かばない。キョウなら猫にだって簡単にやられそうだ。
「別れを言えたんだ?」
心底驚いた。今まで、断れなくて付き合ってたのに。
自分を大切にすることに目覚めたのだろうか。
「いや、前……あーちゃんに危ない目に合わせたから反省して……あっ、大丈夫。四股かけてること秘密のまま別れたから」
危ない目と言われて、キョウの元カノに襲われたことを思い出した。
「えっ? あたしが原因? 好きだと思う子いたんであろう? いいのかの? それでも?」
「いないよ」
「はっ? いないの? 一人も?」
キョウにとって付き合うってなんなんだ? あたしにとっても未知数でもあることだけど、そこに幾らかの恋愛感情があるのだとは想像できていたのだから驚いてしまった。
股割り過ぎて、感覚がマヒしてるのかな。
「あーちゃんがいちばん好きだよ」
「ぬっ?」
そう言うと、キョウはあたしの後頭部に腕を回し引き寄せると、唇に唇を押し付けた。
驚いて目を開けて、キョウの閉じられた瞼を見る。
なんのキスなんだ?最近は頬にキスしかしてなかったし。
しかもこんなタイミングでされたことなんてなかった。いつもより長いキスに息苦しさを感じる。
ガタッと音がして、視線だけ横にずらした。
キョウの唇はまだ離れなくて、こちらからどう終わりにしていいかもわからなかった。
リビングのドアを開けたヤマ兄が立っていて、あたし達の方を表情も変えず見つめていた。どうしてか急に恥ずかしさに襲われ、キョウの両肩を押し返して、ようやく身体が離れた。
「ヤマトお帰り」
キョウは明るく声をかけた。
「おう」
ヤマ兄は返事だけすると、ソファに腰を下ろす。
あたしは、頬が熱を持っているのがわかり、隠したくなる。
なんでだろう。別に今に始まった訳じゃないし。キスするとか。キョウと口でするのは久しぶりだったけど。
「キョウ殿、邪魔じゃ。向こういけ」
冷たくあしらったけど、すごいドキドキしている。
顔を下にして見えないように隠した。
ヤマ兄に違うって言いそうになった。
キスしてるところを見られただけなのに。
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