5話 いらない贈り物

「宅配便しゃーす。お届け物にあがりしゃーす」

玄関を開けると、威勢のいいお兄さんから郵便物を手渡された。

「着払いーっす。サインお願いしゃーっす」

「着払い……?」

宛名はヤマ兄になってたけど、差出人は不明だった。

誰からだろう。四角い大きめの箱だ。

「なんだろう?」

リビングに戻ると、ソファにキョウが寝っころがっている。

「あーちゃん! それなに? 食べ物?」と、箱を見るなり飛び起きた。

「わかんない。ヤマ兄にって。だけど軽いよ? サイズ的にはクッキーとか入ってそうだけど」

「じゃあ、食べようよ? きっと、ヤマト一人じゃ食べきれないよ」

「それもそうだね」

優しいあたし達に感謝して貰おう。

甘いものを食べたかったあたし達は迷わず、包装紙を破いて箱を開けた。

……箱が入ってた。

「わぁ。このセンス、ないね」

「うぬ。どん引きなのじゃ」

箱を開けるとまた箱だった。テンションはガタ落ちだ。

お菓子じゃないとしても、予想外れすぎる。

「もしかして、次も箱なのかの?」

「……と、見せかけて奇跡の三角かもよ、あーちゃん」

「とりあえず、クッキーじゃなさそうだね」

しょんぼりしてしまう。


諦めの色が濃くなると、キョウが真剣な面持ちで切り出した。

「しまおうか」

「そうだよ。キョウ、人の郵便物を物色したら災いが起こるってことわざ知らないの?」

「えっ? あーちゃん、本当?」

キョウがワタワタしていると、ヤマ兄が帰ってきたみたいで、リビングのドアから顔を出した。

「ヤマト! 箱届いてる!」

「……箱?」

怪訝そうな顔をするのも無理はない。だって箱が届いているのだ。箱が。

ヤマ兄が箱の中から箱を何個も取り出す。

イライラしたみたいで、途中からあたしが箱取り出し係に任命された。

箱を何個取り出したことだろうか。

最終的には、小さな掌サイズの便せんに辿り着いた。

〝果たし状〟と書いてある。

「着払いじゃなくてよくない?」

「あーちゃん、そもそも箱なんか必要ないよ!」

ヤマ兄は無言でその手紙を取り出し、読み始めた。

便せんの中に便せんはなかったみたいで安堵する。

だけど、次第に顔が険しくなっていくから、見ててちょっぴり不安になる。

だって、あんな子供みたいなことをする差出人からの手紙なんて、ろくなものじゃないって、あたしだって察しがつくのだ。

「あーあー、つまらぬのぉ」

キョウは腰をあげて、部屋へ戻って行ってしまった。


ヤマ兄があたしの隣に座ると、ソファが軽く揺れた。

「アサ……」

「うぬ?」

「今週の日曜日、絶対外出るなよ」

「えっ? なんで?」

「絶対に出るな」

ヤマ兄が、あたしを睨むように見つめた。

「……うーん。わかったのじゃ」

この前、喧嘩をしてたヤマ兄を思い出したせいか頷いてしまった。

弱いな、あたし。

その後、睨むのをやめたかと思うと、あたしの頭をポンポンと叩いた。

それから、ゆっくり唇にキスをされた。

チュッとリップ音がする。


あたし、どこにも出掛けないけど。

それともヤマ兄がどこかにまた出かけるのかな。

キスされたことがちょっと不思議で、見つめてしまった。

だけどヤマ兄は「行ってきます」も「行ってらっしゃい」も言わず部屋を出て行った。


3時間目の休み時間。

「えっ? ヤマト先輩が喧嘩とかするのかって?」

ルリカが驚いた顔をした。

「そう。この前、ヤマ兄宛で着払いで果たし状が届いたの、家に。果たし状ってあれだよね。喧嘩しようみたいなお誘いだよね? それって普通は送られてこないよね? ヤマ兄そんなに喧嘩ばかりしてるのかなぁって」

喧嘩が強いとかそんな話はちらりと聞いた気もするし、実際、この前喧嘩している彼を目撃した。だけど、家にいるヤマ兄からは想像もつかないし、なんだか不安になってしまい、ルリカに思わず打ち明けてしまった。

「……何それ」

と困惑した表情をしてから

「ていうか、アサカは何も知らないんだね、本当に」

「うん。なんか恐い異名があったとか聞いたことはあるけど。なんで?」

はぁと呆れたような溜め息を吐かれた。

「まあ噂なんだけど……。ヤマト先輩が中等部のときにね。女の子が不良に絡まれてたらしいの。それを助けたんだって」

「へえ」

「で、その時、絡んできた不良っていうのがここら辺全域をシメていた喧嘩がすごい強い高校生で、めちゃくちゃ有名人だったらしいの。それから、復讐やら名前をあげる為にとか、よく分からない逆恨みとかで、からまれるって聞いたよ。だから、喧嘩もよくするんだと思うよ」

「えっ、本当に?」

胸の内を聞いて欲しいくらいだったのに、ルリカがそこまで詳しいことも驚きだった。

あたしなんか、毎朝、ヤマ兄にプロレス技をきめこんでいるから、喧嘩に明け暮れて、おまけにそんなに強いなんて想像もつかなかった。


「だから、ヤマト先輩の周りにはこんな平和な学校のわりにガラ悪い人しか集まってないでしょ?」

「言われてみれば」

確かに頭がコーンローの人とか、スキンヘッドの人とか奇抜な人とつるんでるイメージはあるかも。

つるんでるというか、その輪から一歩下がって見てる感じかもしれない。

人とはしゃいでたりするところを見たことがないせいかもしれないけど。


「みんな、ヤマト先輩に挑んで負けた人らしいよ。まあ、だから、この学校含めて、ここら辺の学校全域のナンバーワンなんだよ」

握り拳をつくって、ウィンクした。

なんだ、それは。

知らなかった。とか、考えながらも妙に説得力もあったかも。

たまに傷をつくって家に帰ってきたこともあったもんな。

そういうことなのかな。

とりあえず明日から、朝、起こす時は優しくするべきかもしれない。肝に銘じてみた。

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