4話 ヤマ兄の別の顔?
放課後になると
「あーちゃん、帰ろう」
デートの予定が無い日はこうやってキョウがあたしを教室まで迎えにくる。
「うん」
なんだかんだ家族の中で、キョウといちばん仲がいいと思う。
年が一緒のせいもあるけど、彼が包み隠さずなんでも話してくれるせいかもしれない。
食べ物の話とか、最近は特に武士話で盛り上がっている。
というのも、人気時代劇アニメ、夜桜侍・クルシュウナイにはまってしまっているせいだ。
それからというもの、すっかり大河ドラマや時代劇のとりこだったりする。
「キョウ、タイ焼き食べて帰ろう」
「いいけど。あーちゃんのおごりね。あれがいい。文化堂のとこ」
金欠なのにおごりと言われてしまった為、作戦を変える。
「やっぱりめんどいのじゃ。買ってきて」
「えーっ。あーちゃん、あれでしょ。お金がないからそう言って俺にたかろうと」
「ぐぬぬ。そんなことはないのじゃ」
校門を抜けると自然に手を繋がれた。
キョウ曰く、痴漢が何処にいるかわからないからということ。
あたしはそんなことよりも、5股の彼女の誰かが現れたらなんて言い訳するんだろうと、そっちばかりが気になってしまう。
彼女に間違われたら厄介だし、双子の絆は深いんだぜと言って一瞬で納得してくれるだろうか。
とりあえず、ブレザーの内ポケットには生徒手帳をひそめている。
兄妹の証明として出せるように。防犯ブザーもそのうち購入しておこうかな。
「あれ、ヤマトだ」
キョウが駅の近くで足を止めた。
キョウもヤマ兄も兄という呼び方をせず、呼び捨てで兄の名を呼ぶ。
その先には、ヤマ兄が黒い学ラン男の顔面に右拳をぶつけていた。
「……ぎゃっ」
あたしは、繋いでた手を振り払い、目を覆ってしまった。
ヤマ兄がこんなところで喧嘩をしているのを初めて見た。
「ひゃっほー」
歓声めいた声を出す、キョウ。
馬鹿じゃないの。
喧嘩してるんだよ。
血が出てるんだよ。
あれ? でもあたし、プロレスは大好きだ。てことは流血、平気じゃん。
違う。ヤマ兄が喧嘩してたから驚いたのか。そう考えて腑に落ちた。
「あーちゃん、目、開けて大丈夫だよ」
キョウに言われて、目を開けた。
ぐったりした相手の倒れこんでいる姿と、それを睨むようなヤマ兄の冷たい視線が視界に入り、背筋がヒヤリとした。
あんな冷たい顔は家ではしないから。別人みたいだ。
そう言えば、誰かが言ってた。
〝ヤマトは……なんちゃらの番犬だって…。〟
あれ……番犬って。……いや、番犬じゃないか。忠犬……?
……うん。
よく思いだせなかったけど。とりあえず、恐そうな異名があったって。
あたし達に気がついたようで、ヤマ兄は一瞥した。だけど声をかけることもなく、背中を見せた。
ヤマ兄は、これからどこへ行くのだろうか。
朝、サソリ固めでギブアップをした彼と違いすぎて、とても気になってしまった。
「あーちゃん、帰ろう。やっぱね、しょっぱいの食べたくなった」
「う……うん」
キョウの引っ張る手が強くて、あたしはそのまま改札へと引き込まれたのだ。
小6のときに、アサカ探偵事務所を脳内に設立してから、兄妹たちに見せられない秘密ノートをずっと所有している。
何処に閉まったか忘れないように、本棚に置いて隠してあるのだ。
漫画と漫画の間にノートがあるなんて誰も思わないだろう。
我ながら、利口だと思う。
それには〝相模家あたしの真・お兄ちゃんは誰だ事件〟の調査内容が、ノート1ページ分という膨大な量で書かれているんだ。
これを誰かに見られたら……。
相模家パニック! 大変な秘密が漏れてしまう。
ノートにはこう記してある。
★朝芽の予想★
お母さんに、あたしの子じゃないと言われたけど、ちゃんと血の繋がったお兄ちゃんがいると言われた。
・タカ兄は、身長が大きい。あたしは身長が前から3番目。あたしをオランウータンに似てると言いやがった。⇒お兄ちゃんじゃないかも。
・ヤマ兄は、恐いテレビが好き。あたしも恐いテレビが好き。この前、アイスを買ってくれた。⇒お兄ちゃんっぽい。
・キョウは、プロレスが好きだって言うけど、あたしより弱い。怖いテレビが見れないしへなちょこだ。お兄ちゃんぽくない。⇒お兄ちゃんじゃないといいな。
「前回の調査から、5年か」
久しぶりに広げたノートをまじまじと見ていた。
最近、変わったこととか何かあったかな。
久方ぶりに、調査内容を記そうと思った。
★朝芽の予想★
・タカ兄は、身長は190近くあるけど、あたしは155。⇒遺伝的にお兄ちゃんじゃないんじゃない?
・ヤマ兄は、喧嘩が強いみたい。あたしも格闘技ファンだ。⇒血は争えなそうだ。
・キョウは、よく考えたら双子なんてあんまりいない気がする。⇒お兄ちゃんの可能性低くない?
こうやって、考えをまとめるとヤマ兄がいちばん、お兄ちゃんっぽいな。
そうして、5年ぶりの調査結果をまとめてみたものの、まだ真・お兄ちゃんは絞れなかった。
気が向いたら、調査に出かけよう。
いつもの定位置へと戻した。
こんなことを書きながらも、本当にあたしは兄妹のことをよく知らなかったんだと、あとでまた痛感することになる。
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