3話 ブラコンじゃない

「あんたは、現実を見なさい」

「なぬっ?」

お昼休みに、雑誌を片手に夢見心地なあたし。

だけど、同じクラスの沙弥子サヤコが目を細めて呆れた顔で見つめていた。

「現実、生きてますけど」

サヤコは持っていた雑誌を奪い取った。

「ああっ! ヨリ様!!」

「ヨリ様じゃないっつうの」

「良いじゃん、別に」

「良くないよ! 現実生きろっつうの!」

ボブの髪を逆立ちしそうな位の形相で睨まれた。

あたし、怒られるようなことしたっけ。

まったくもって心当たりがなかった。

「アサカは誰が好きなんだっけ?」

「ヨリ様」

即答すると、じっとまた睨まれる。

「いいじゃん。サヤコみたいに彼氏いないんだもん」

頬を膨らまして、雑誌を奪い返した。

購買部から戻ってきた瑠理香ルリカがあたしの前の席に座ると、あたしの手から雑誌を奪いパラパラと眺め始める。

「今をときめくトップモデルねー」


そうなのだ。

あたしは恋を知らない代わりに、遠い存在の彼に憧れを抱いている。

メンズ雑誌の表紙を飾るトップモデル、ヨリ様に。

「お兄ちゃんがさ、イケメンすぎると絶対、理想高くなるんだよ」

ニコニコとルリカはあたしに微笑みかけた。

「でもいい加減、初恋もまだって貴重だよ。貴重しすぎて保護したくなるよ。絶対、あんたブラコンでしょ?」

「サヤコ」

「あたしにだったら保護されてもいいという目、やめてもらえる? だから、あんたはレズっていう噂がたつんだよ」

サヤコはあたしに軽蔑の眼差しを向けた。

「サヤコが男だったら、あたし付き合うのにな」

「まじ、きもい」

あたしの中で順番をあげるなら、ヨリ様の次にサヤコの男版だな。いないけど。

どっちにしろ現実味のない話で、結局、恋に辿りつけないでいるのだ。

「キスもしたことないんだもんね?」

「う……うん」

ルリカの質問に少し戸惑いながら答えてしまった。


キスなんか何回もしたことがある。

だけど、兄妹とのキスであって、好きと思える人とはしたことがない。

好きな人とするキスはどういう気持ちになるんだろう。

「そんなに何もしてないとさ、付き合ったら大変そうだよね。先進まなそう。男の身体とか見るだけで固まっちゃいそうだもん」

サヤコは言った。

「そうだね」

その言葉でさえ、苦笑いしてしまうのだ。

男の人の身体って、人によってそんなに変わるのかな?

まじまじと見ることはないけど、キョウとかがパンイチで家の中を歩いている姿は何度も見たことがあるし。


ブラコンねー。

まさか、あたしがブラザーコンプレックスなわけないよ。

恋はしなくても憧れのヨリ様もいるんだし。

サヤコのほうがかっこいいしなと改めて思った。


「あっ、キョウくんいるよ」

ルリカが、窓から校庭を見た。

つられて覗き込むと、次の時間は体育らしく青のジャージを着ている。

「やっぱ、かっこいいよね」

「そうかな?」

まあ、黙っていれば可愛い男の子なのかもしれない。実際、5股男だけど。

普段のキョウを知り過ぎていると何も言えないな。

一応、お兄ちゃんだし。

ふっと、視線を上にあげたキョウと目があった。

ぶんぶんとあたしに手を振りながら歩く。

あっ、ぶつかりそう。

と思ったら、前を歩いていた男子の背中に思いきりぶつかった。

前見て歩かないからだよ。

キョウは、やっぱり、ちょっとどんくさいのだ。

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