第16話 百鬼夜行〜目指すは魔都〜
魔神が襲来してきてから数時間が経過し、辺りは闇に沈んでいた。
魔王山本は比較的、戦闘能力の高い妖怪を集め百鬼夜行の準備を初めていた。
「百鬼の諸君。今朝、ここを襲撃してきた者たちは魔族という種族の上位個体であり、魔神というらしい。既に殺した6体を含め、そこにいる2体は残念なことに”虫”であったがな。」
”くははは” ”ぎゃはは” などと笑い声が聞こえてくる。
「しかし、聞いた話によるとだ。さらに強い、戦い甲斐がありそうな魔神たちが住む地があるらしい。どうだ?我らから会いに行かぬか?此度の礼をしに行こうではないか!」
”おおおおお!!” ”皆殺しだあああ!!”
たった8体で攻めてきたため、殆どの妖怪たちは戦えていなかったのだ。やっと思う存分戦える機会が来たと血に飢えた妖怪たちは歓喜の声を上げる。
「さあ、案内してもらおうか、魔神よ。」
オロバスは顔を青くする。自分の仕える魔王アモンが負けるとも思わないが、万が一のこともある。そして、自分は裏切り者として抹殺されてしまうだろう。裏切り者として殺されるくらいなら自害をしようと考えたが、なぜか体が動かなかった。
そして、がしゃどくろの頭に乗る魔王山本五郎左衛門を先頭に、妖怪の街から続々と魑魅魍魎が出てくる。この世界に来てから2回目の百鬼夜行である。不知火が夜の闇を照らし、楽器の付喪神が音を奏でながら歩を進める。
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「かなり景色が変わってきたな。」
魔王山本が周りの景色を見ながらそう言った。
あるところを界に、緑豊かな景色は見えなくなり、空は赤紫色に染まったまま一切変化をしなくなった。森の木々も緑ではなく、灰色や紫といったくらい色が多い。
「なぜだ?」
魔王はがしゃどくろの鎖骨部分からロープでぶら下げられたオロバスに話しかけた。
「…我ら魔族はそれぞれが強力な魔力を持っている、特に魔神にもなればそれこそ桁外れのな…それらが周囲の動植物に影響を与えるとこういった自然現象が発生するのだ…」
「なるほど。」
オロバスから話を聞いていると突然、地面が盛り上がり、巨大な石の巨人が現れた。
「コノ先ハ、魔王城ダ…許可ノナイ立チ入リハ禁ズル」
「オロバス、こいつは?」
「ストーンゴーレムだ…お前たちの気配を感じ取り作動したようだな。」
「へぇ…。誰か排除して良いぞ。」
魔王山本がそう言うやいなや、後方から1匹の妖怪が動き出す。
ゴゴゴという轟音と共に地面を突き破り勢いよく現れたのは大百足だった。
大百足はその名の通り、巨大な百足の妖怪である。全長はハッキリとは分からないが、地中から飛び出している部分だけで50mはあるだろう。非常に硬い甲殻はいかなる刃も通さない。そして、口元の鋭い牙で全てを分断する。
その大百足がストーンゴーレムと戦闘を始めた。ストーンゴーレムが大百足を殴るが、ビクともせず。大百足はそのままストーンゴーレムに巻きついた。
「ギシャアアアアアッ!!」
大百足の鳴声が空気を震わせる。そしてそのまま、一気に締め付ける。
ミシミシとストーンゴーレムが異音を発し始めた。
「グ…ギギ…緊急事態…発生…ギギギ…ガガガガーーー」
締め付けに耐えれなくなったストーンゴーレムはバッコーンと周りに破片を飛び散らせながら爆散した。
「す、ストーンゴーレムを…化け物どもが…」
オロバスがその光景をみて小さな声で言葉を漏らした。
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大百足がストーンゴーレムを爆散させてからも、次から次へと新しいストーンゴレームが出現したが、魔王たちは特に気にすることもなく。”仲良く分け合い”ながら魔王が住む地を目指していた。
そして、ついに魔王城がある魔都が見えてきた。
「あれが、魔都か。デカイな。」
魔王山本がそう言うのも当たり前だ。魔都の大きさは妖怪の住む街とは比べ物にならない大きさを誇っている。だが、魔王山本の中に恐怖心はない。むしろ、これから起こる戦いを想像し、期待を高めていた。
「あ、あれは…!魔王軍!!!!」
オロバスが歓喜の声を上げる。彼の視線の先には魔都の周辺の地面を埋め尽くすほどの魔族たちが集まっていた。
「そうか…誰かがこの事態を魔王様に伝えていたのだな…!」
「くははははは!!面白い!!面白いではないか!!」
日本にいた頃ではありえない規模の大戦が始まろうとしていたため、魔王は心を震わせた。
「な、なにを笑っている…!あそこにいるのはこの世界最強の軍隊だぞ!!」
オロバスは魔族の勝利を確信しているのか、興奮しながらその魔族の軍隊の規模を語った。
まずは、総大将に魔王アモン。その下に魔神が60柱。全盛期にはアモン含め72柱いたという。そして、魔神はそれぞれ魔族や魔物の軍団を率いており、その数3万以上。つまり、合計で180万以上の軍勢となる。
「我が眷属たちよ。見ろ、あの数を…あれら全てが我らの敵らしいぞ?」
百鬼夜行は歩みを止め、まだ豆粒ほどにしか見えない魔族たちを睨みつける。
”戦じゃぁあ!” ”イーッヒヒヒヒ!” ”ウガァアアアア!!!”
妖怪たちはそれぞれ歓喜の雄叫びをあげた。
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「魔王様、バフォメットの言う通り本当に現れましたね。」
「ああ、あれが…未知の生物か。」
魔王アモンの視線の先にあるのは、青白い光に照らされた、見たこともない化け物達の大行進だった。
「…楽しめそうじゃないか。しかし、向こうから攻めてくるとはな。頭のおかしい連中がいたものだ。」
こうして、妖怪と魔族との全面戦争が始まったのだった。
「魑魅魍魎の祭りだ!全力で楽しんでこい!!」
「我が配下の魔族たちよ!愚かな奴らを滅ぼせ!!」
二人の魔王は同時に開戦の合図を出した。
両者とも一斉に動き出す。あるものは空を飛び、あるものは地中を移動する。魔族たちの軍隊が、まるで黒い波が押し寄せるように妖怪たちへ迫ってくる。そして、妖怪たちは不知火の青白い灯火や、その他の自己発光する妖怪たちが色鮮やかに、その地を染め上げていた。
まず、最初に魔族と激突した妖怪は『輪入道』と『野槌』だ。数十体もの輪入道が一斉に魔族の頭上を飛行し、輪入道を見てしまった大勢の魔族の魂を奪っていく。
また『野槌』という妖怪は地中を主に移動する妖怪であり、見た目は太く、巨大な蛇の体をしており、目と鼻は存在せず、頭部に大きな口が付いている。この野槌も姿を見ただけで相手を死に至らしめる妖怪である。輪入道と違う点としては、輪入道は相手の魂を奪うだけであるが、野槌は見たり、触ったりするだけで相手は病を患い、命を奪われるという点だ。
『輪入道』も『野槌』もその見た目ゆえ、戦場ではとても目立つため、魔族は視界に2匹の妖怪の姿を入れてしまい、次々に倒れていく。突然、仲間が倒れていくため魔族側では大混乱に陥っていた。
「お、おい…!!どうした…!!おい!!」
「急に倒れて…し、死んでる!?」
「見えない攻撃か!?どこからだ!!」
「なんだ…あのでけえ口の化け物は…げほ…げほっ…げはごほっ!…く…苦しい…たすけ…」
「一体何が起きている!!!」
野槌の姿をみた魔族が病を患い、その病が次々に健康な魔族に感染していく。症状としては、立てなくなるほどの高熱、息ができなくなるほどの咳、胃の中に何も無くなっても治らない吐き気、頭が割れると思うほど頭痛、目眩。__病人で戦場はすでに地獄と化していた。
そして、それに追い打ちをかけるように、次々に妖怪が現れ、弱り切った魔族を屠っていく。
「くそ…!化け物どもが!!!巨人部隊を出せ!!」
魔神の一柱が、己の配下である巨人族を呼び出した。巨人の身長は20m程で、それぞれが鎧を纏い、大きな盾と剣を持つもの、大槌、棍棒を持つものに別れている。それが100体おり、一つの部隊を編成していた。相手が人間なら為すすべなく蹂躙されるだろう。
「この世界にも巨人はいたのだな。」
魔王山本は後方で、がしゃどくろの頭の上に鎮座していた。
「なら、こちらも巨人を出すとしよう。」
そういって、呼び出したのは日本最大の大きさを誇る大妖怪『ダイダラボッチ』だった。
ダイダラボッチの半透明な足が山の向こう側からうっすらと見え始める。やがて、姿がはっきりと見え出し、その巨大さに魔族は戦慄した。胴体から上が雲の上にあり見えないのだ。
「あれは…まぼろしか?」
そのありえない光景に現実逃避を始める魔族も現れ始める。それほど非常識な光景だったのだ。
巨人族からも驚愕の声が漏れ始める。自分たちよりも大きい、人型生物を見るのは初めての経験だったのだ。
「…我らと同じ巨人なのか?」
「あんなのに…勝てるのか?」
「狼狽えるな!!あれは幻術だ!!現に先ほどは半透明であっただろ!!」
しかし、彼らはあれが幻術ではないと、すぐに思い知らされることになる。ダイダラボッチが片足を後ろに下げ始めたのだ。その体勢は誰もが知ってた。”蹴り”だ。
「に、にげろぉおお!!!」
一人、二人、と魔族が蹴りから逃れるため逃げ出した。
「落ち着け!!幻術だと言っているだろ!!」
しかし、巨大な足からは逃げられない。超人的なスピードがあれば間に合うかもしれないが、彼らの体能力で回避するにはあまりにも遅すぎた。
ゴゴゴゴと空気を押しつぶしながら、足が迫ってくる。途中、小さな山があったが木っ端微塵に吹き飛ばされる。その瞬間に幻術ではないことが証明し、先ほどよりも大勢の魔族が逃げ出した。
「げ、幻術ではないだと…!?」
ダイダラボッチの蹴りは魔族たちを蹴散らし、巨人部隊も跡形もなく消し去った。そこには、巨大な足にえぐられた大地が残っているだけだった。
「くっ…なんて威力だ…!我らで同時にあの巨人を仕留めるぞ!!」
十柱ほどの魔神が一斉にダイダラボッチの方へ飛んでいく。
しかし、次の瞬間。あの巨体からは信じられない速度のビンタにより、遥か彼方へ吹き飛ばされてしまった。
「魔神様が…一撃で…」
魔族たちに絶望の表情が浮かびつつあった。
「まさか、ここまでとはな…下等生物という認識は改める必要があるかもな。」
魔族からするとその声は、普段であれば恐怖を感じるだろう。だが、この戦場においてその声ほど頼りになるものはなかった。
異世界の魔王、魔族の王、『魔王・アモン』が妖怪たちの前に立ちふさがった。
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「いよいよ、総大将が現れたか。」
日本の魔王、妖怪の王、『魔王・山本五郎左衛門』の視線の先には大きなツノを生やし、背中から黒い翼を広げる、燃えるように赤い髪をオールバックにした筋肉隆々の男がいた。
魔王アモンが口を開いき魔族に指示を出す。
「お前ら、一旦退け。俺がやる。そして、聞いているんだろ?出てこいよ、親玉さんよー?」
魔王アモンが魔王山本に対して挑発をしていると、目の前に輪入道が飛び出してきた。魔王アモンと輪入道の目が合う。
「邪魔だ、どけ!」
魔王は輪入道を殴り飛ばした。輪入道は地面に激突しながら後方へ吹き飛んでいった。
「ほう、輪入道の力が効かないか。__面白いではないか。」
魔王山本の目が光ったような気がした。
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