第2話 始まりの街

とある異世界の神殿にて




「おや…なにか良からぬものが入ってきたね…」




そういうのは、千年巫女と呼ばれる老婆だ。




「魔物…いや違うね…今まで感じたことのない気配だね…それにこの数…まずいね。まさか、この世界を滅ぼしにきたとかじゃなかろうね…」




彼女に出来ることは出来るだけ我々に害がないように自らが信じる神へ祈ることだけだ。






時を同じくして、魔王(山本五郎左衛門)はというとーー




「さあ!!ここが異世界だ!!!!」




魔王の率いる数万の魑魅魍魎が夜の森を埋め尽くしていた。




「いやー、流石に日本の妖怪全てが集うと圧巻だな!!」




この数の妖怪たちが一斉に動き出したら目立つかもな。そいうえば、近くに街があったな…よし、良いことを考えたぞ。




「よし!よく聞け!!ここから少し行ったところに人間の暮らす街がある!!今夜はそこへ向かう!!久しぶりの百鬼夜行だ!!楽しもうではないか!!」




うぉおおおおお!!!!と妖怪たちの喚声が夜空に鳴り響いた。




「不知火!百鬼の道を照らせ!!」




魔王がそう言うとどこからか青白い火の玉が現れた。その火の玉は二つ、四つ、と数を増やしていく。そして百鬼夜行の左右に均等に並び妖怪たちの足元を照らす。




「よし、あとはあれだな…”がしゃどくろ”!!」




”がしゃどくろ”と呼ばれるは妖怪は全長30mを遥かに超える体を持つ妖怪だ。複数の人骨が集まり、一つの巨大な骸骨の形を成している。




そんな、がしゃどくろの頭に乗り移動するのに魔王はハマっている。すると、カラカラと骨を鳴らし、がしゃどくろが現れたので魔王は「よいしょっと」と、頭に飛び乗った、




うんうん。やはりこいつの頭の上は落ち着くなー。お、そうだ。折角の異世界での百鬼夜行だ。とことん派手に行こうではないか。




「付喪神たちよ、あー、楽器の付喪神な。いつものを頼む。」




魔王が楽器の付喪神たちに命令すると、音楽を奏でだした。




横笛や太鼓といった日本にいたらお祭りかと思ってしまうような音楽だ。




「準備はできた…百鬼の群よ、我に続け!!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




魔王が目指す街にて。




日本のようにコンクリートの街ではなく、いかにも異世界、中世ヨーロッパ風の街だ。




「ん…?どうした?」




櫓の上から見張りをしていた男の様子がおかしい。なにかあったのだろうか?




「おい!どうした!何がった!!」




櫓の下には門があり、そこで門番をしていた男が櫓にいる見張りに問いかける。




「な、なんだあれは…ゆ、夢か?なあ、これは夢か…?」




夢?何を言っている?




「ま、魔物の大群だ…それも数千…いや…数万!!!」




なんだと!?なぜ今まで気がつかなかった!それだけの大群であればもっと早く発見しているはずだろ!?




「と、とにかく鐘を…!鐘を鳴らせ!!!」




するとすぐに。カーン!カーン!カーン!と、けたましく鐘を鳴らした。




「魔物だ!魔物の大群だ!!みんな起きろ!!!」




あらゆるところで金切り声が聞こえる中、それとは別に何かが聞こえる。




「これは…楽器の演奏か?」


すると櫓にいた見張りの男から悲鳴が聞こえた。




「う、うわぁああああ!!!!!!!!」




彼が見つめる先を見るとそこには…今までに見たことも聞いたこともないほどに巨大なスケルトンの化け物と、これまた見たことのない魔物たちが鎮座していた。




「あー、ゴッホン…人間の諸君」




巨大スケルトンの頭の上にいた人間?いや、人間のはずがないか。あれからは何の力もない俺でさえ、バチバチと嫌な気配を感じる。




「我は魔王。山本五郎左衛門である。この街を我らに渡せ。無駄な抵抗はせずに渡せば命だけは助けてやるぞ。」




嘘だな…あいつの目、あれは人を見る目じゃない。まるで虫か何かを見る目だ。どうする?戦うか?いや、戦ってどうする?一か八か、話をしてみるか…少しでも時間を稼いでこの街の冒険者たちが到着するまで持ちこたえるか。




冒険者ーー魔物退治をメインに活動をする誰もが一度は憧れる職業。己の力を極めた冒険者は一騎当千であり、こういう状況の場合一番頼りになる存在だ。




「ま、魔王殿…こ、この街をどうするつもりですか?」




魔王は気だるそうに答えた。




「住むところを探していてな。遠い地よりやってきたのだ。それでこの街が一番近かったのでな、住むことにしたのだ。さて、そろそろ答えを聞こうか。大人しく渡すか、それとも…」




「ま、待ってほしい!!俺はただの門番で、決定権がない!!今すぐに上のものがくる!!頼む…!い、いや…お願いします!!まだもう少しお待ちを!!」




もう限界だ…冒険者はまだか!!




「ふぅ…もう時間だ。終わりにしよう。百鬼の諸君、思う存分暴れろ!!!」




魔王の掛け声と同時に喚声があがった。




うぉおおおおおおお!!




久しぶりの人間だぁ…!!




美味そうな人間がたくさんいるではないか…ヒヒヒ




「がしゃどくろ、門を壊せ」


がしゃどくろは大きな腕を振り上げ、一気に振り下ろした。




ドカン!と爆音と衝撃が大地を揺らす。




門は粉々に吹き飛んでいた。そこにはさっきまで話していた男であった”モノ”が転がっていた。




門が壊れると同時に妖怪たちが街へと流れ込む。




車輪の中央に顔がある妖怪” 輪入道 ”が街を一気に転がり抜ける。輪入道を見たものは問答無用に魂を抜かれる。見てしまったら最後という恐ろしい妖怪だ。そんな妖怪が人の多い街を転がっていくのだから被害は甚大だ。




家を壊しながら進む牛の頭に蜘蛛の体の妖怪” 牛鬼 ”。そうとう腹が減っていたのか次から次へと鋭い爪で人間を突き刺し、食っている。




「た、たすけ…」




また一人、牛鬼の中へ消えていく。




「どいつもこいつも品がないねぇ…」




そう話すのは” 雪女 ”だ。雪女は吐息で住民を次から次へと凍らせていく。




「久しぶりの百鬼夜行…好き放題にやらせてもらうよ…うふふ」




地上が地獄と化している一方、それは空でも起きていた。




大天狗率いる天狗の群だ。




「さぁて、いくとするかの!」




大天狗は神通力と呼ばれる力を使う。火、風、水といったあらゆるものを操る。




「豪炎!!」




大天狗が神通力を使い、街のいたるところで火柱を出現させる。しかし、まだ終わりではない。




「豪風!!」




先ほどの火柱に大量の酸素が注がれ、火はますます勢いを増す。




「ぎゃあぁああああ!!!熱い!!!た、たすけてぇえ!!!!」




「どこに逃げれば…!!誰か!!!ひっ…ひぃいいい!!!!1」


その光景を見て大天狗は言う。




「ほうほう、少々やりすぎたかの?このままでは何もなくなってしまうわい。どれ、火を消すとするかのぅ…豪水!!」




突如出現した大量の水は崩れた瓦礫等を巻き込み凶器と化する。生き残った住民を押しつぶしながら流れていった。




「おい!!大天狗!!危ねえじゃねえか!!俺らまで巻き込むなよな!!」




地上の妖怪たちから非難の声が上がった。




「すまんすまん。久しぶりに暴れられる機会じゃ。やりすぎてしもうたわい。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




命からがら地下にある避難所まで辿りついた住民たちはひどく怯えていた。




「な、なんだよ…あれ…なんなんだよ!!!」




「俺が知るかよ!!」




「魔物…か?だが、見たことない魔物ばかりだったな…」




「そんなことどうだっていいよ!冒険者はどうしたのさ!!こんな時にいないなんて…!!」




「力に自身のない冒険者はとっくにこの街から逃げ出したさ!!Bランク以上の冒険者はみんな緊急クエストで街の外にいる!!」




「たいへんだ…たいへんだ…うひひ…にんげん…たいへんだ…うひひひ」




避難所の中で気が狂ったのか、言動のおかしな男がいた。




「お、おい…大丈夫か?」




すると先ほどの男の頭が異様に膨れ上がった。




「フギィイイ!!たいへん…だあ!!!にんげんッ!!」




今度は体膨れ上がり、頭でっかちのアンバランスな巨人が現れた。背丈は4〜5mほどだ。




「ひぃいいいい!!化け物だぁああ!!!」




「ど、どっから入ってきた!!!!」




避難所は安全だと確信していた住民はパニックに陥り外へ外へと一斉に逃げ出す。




「どけぇえええ!!!!俺はこんなところで死んでいい人間じゃないんだぁあ!!!」




「や、やめて!!お願い!!私には子供がいるの!!」




「う、うるさい!!ガキなんかどうでもいいだろ!!!」




その光景を楽しそうに巨人、大入道は見つめていた。




「がははぁ!!けんかはぁああいかんですなぁああ!!!!!!」




大入道の声は二重、三重になって聞こえる。それがより今恐怖心を煽る。




そして、大入道は空気を一気に吸い込み…ふぅーーーっと吐き出した。大入道の吐き出した空気は暴風となり、そこにいた住民を吹き飛ばす。狭い空間での暴風は行き場を見失い、やがて地下にある避難所の頭上の地面を突き破り一気に外へ吹き出した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




冒険者視点。




冒険者たちは緊急クエストを終え、ギルドのある街へ帰還するため歩みを進めていた。




「いやぁー結構大変だったっすね〜」




「まあな、あの数のオーガは初めて見た。Bランク以上の冒険者を全て集めて来たのは正解だったな。」




「あぁ。おかげで一人も死者を出さずに終えることができた。」




そんな話をしているとピューーーーっと音を立てながら空から何か落ちてきた。




ズドン!!!っと勢いよく落ちてきたそれは人だった。




「お、おいおい…なんだぁこれは…」




「こ、こいつ見たことあるぞ!!俺たちの向かってる街にいる商人だ!!」




「どういうことだ!?なぜ空から落ちてきた…!」




するとまたしても、ピューーーーーっと音が聞こえ、人が落ちてきた。次々に落ちてくる。時たま、瓦礫だろうか、そういったものも一緒に落ちてくる。




「ま、まさか…街でなにか起きたんじゃ…」




一気に冒険者たちに不安が広がっていった。




「急いで戻るぞ!!街でなにか異変が起きた!!」




冒険者たちは急いで街へ向かった。









街に近づくとすぐに異変に気が付いた。




「ま、街が…燃えている」




「あぁ…それだけじゃねえ。見ろ。防壁が粉々に吹き飛ばされていやがる。」




「みんな…無事でいてくれよ…!」




「二手に別れて行くぞ!お前らは西の門から行け!俺らは東の門から行く!!一人でも多く住民を救うんだ!!」




街に到着した、冒険者たちが見た光景は、まさに地獄だった。




あちらこちらで火の手が上がり、一部の建物は龍に吹き飛ばされたのかというくらいに崩壊し、そして…見たことのない魔物が住民を襲っていた。




「おい、見ろ!!何かこっちにくるぞ!!!」




それは輪入道だった。しかし、彼らはこの妖怪の能力を知らない。ゆえに…




「おい!どうした!!急にあいつ倒れやがったぞ!!」




倒れた冒険者に近づき、すぐに気が付いた。




「し、死んでいやがる…!な、なにが…お、おい!気をつけろ!!敵の攻撃かもしれん!!」




「なぁ…あれはなんだ…まるで車輪の……」




ガクッと魂が抜けたようにまた一人、崩れ落ちた。




「ま、まさか…見ただけで殺されるのか…?」




確信はない…だが、事実だとしたら




「お前ら!!あれを見るな!!!見るだけで死ぬぞ!!!!」




「そ、そんな!見ずにどうやって戦うんですか!!!」




見ずに戦うなんて無理なことぐらい分かっている…!




ん…?待て…なぜこんな隙だらけなのに襲ってこない?




奴の能力はこれだけで、他に攻撃手段を持たないのか…?確信はない…だが…やるしかない!




「こいつは俺に任せろ!!」




よく音を聞け…奴の車輪が転がる音を…まだだ…まだ…来た!横を通る!!




手にしていた大剣を一気に音の方向へ振るった。




「人間をぉおお!!なめるなぁあああ!!!!」




手応えはあった!間違いなくぶった切った!!!




「はぁ…ハァ…ざまぁみろ…」




しかし、彼らにはもう一つ知らないことがあった。




輪入道はーーー不死身なのだ。そう、倒すすべは存在しない。倒すことは出来ないが、出会わないように回避することは出来る、そういった妖怪なのだ。




倒したと思った敵の方向からまた車輪の音が聞こえ出した。




「そ、そんな…生きているのか…?」




倒せなかったとう絶望が冒険者の間に少しづつ広がるなか、空から声が聞こえてきた。




「ほほう…面白そうな人間がおるのぅ。輪入道よ、ここはワシに任せてくれい。」




なんだ…?空から声が…




「そこの人間よ。目を開けても大丈夫じゃぞ。輪入道はもうおらん。」




わにゅうどう?さっきの魔物のことか?信頼してもいいのか…どちらにせよ、このままだと殺される未来しかないか。




冒険者たちはゆっくりと目を開けた。




「まぁ…人間じゃないよな」




そこにいたのは鳥のような翼を背中に生やし、体は自分の3倍ほど大きい。




「お主、名はなんというのだ?」




「…ラースだ。」




「ほほう、よし!ラースよ。ワシは今暇でな、少し遊び相手になってはくれぬか?」




遊び相手だと?間違いない、殺すつもりだな。




「嫌だと…言ったら?」




鳥のような魔物の顔色が変わった。




「そのときは…より苦しみを与えながら殺すとしよう」




ふん!そんなことだろうとは思っていたぜ!くそが!!!




「わかった…付き合ってやる。」




「おお!そうかそうか!そうじゃ!ラースとやら、そこにいる者たち全員でかかってくるがよい!お主らの力を見せてみよ!!」




どうせ、死ぬなら最後は冒険者らしく…死んでやるぜ。




「すまん言い忘れておった。ワシは大天狗!異世界よりやってきた妖怪じゃ!」









大天狗との戦い、いや一方的な虐殺が始まった。




「ラースよ、もっと本気を出さんか!」




くそ!!!化け物が!!!こんな奴がこの世界にいていいはずがない!!!!




ラースが押されているところに、魔法をメインに使う冒険者が加勢をする。




「ふ、ファイヤーボール!!」




冒険者の手から火の玉が大天狗を目掛けて飛んで行った。




「むむ!お主も神通力を使うのか?いや、違うのぅ…別の力かの?」




そう言いながら虫を払うようにファイヤーボールを打ち消した。


「よい物を見せてくれた礼じゃ!ワシの神通力をみせてやるわい!豪炎!!!」




そういうと、大天狗の頭上に先ほどのファイヤーボールの何倍もある火の玉が作り出された。まるで太陽のようだ。




「ワシもそのファイヤーボールじゃったか?作ってみたわい。ほれ!受け取れい!」




太陽のようにでかい火の玉が落ちてくる。




「なんてデタラメな力だ…!!魔術師は防御壁を貼れ!!!物理特化の奴は気合いで耐えろ!!」




大天狗が打ち出した火の玉が魔術師の作り出した防御壁にぶつかり、ミシミシと嫌な音をたてる。




「た、耐えろ!!!」




「ほー!よく耐えておるのう!!よし、これならどうじゃ!!」




次の瞬間、冒険者たちはその光景に自分の目を疑った。




一つ堪えるのに精一杯の火の玉が、空を埋め尽くすほどにそこにはあった。




「それ!!いくぞ!!ラース!!!」




ふはは…もう笑うしかないな…これは人類…いや世界がやばいか?




「みんなすまん…巻き込んじまったな」




「何言ってるんですか!誰も気にしちゃいませんよ!」




「ああ!そうだ!!」




「もちろん!!」




あぁ本当に俺は仲間に恵まれていたんだな…




まるで朝日が登ったかのような眩しい光が街を爆音と共に照らした。









二手に別れたもう一つの冒険者視点




「なんだこいつらは…!どいつもこいつも見たことのない魔物ばかりだ!!」


小さいオーガのような魔物を斬りながら街の生存者を探していた。




「と、とまれ…!!」




冒険者のリーダーらしき男が仲間に指示をだした。




「なんだ…この数は!!」




街の大通りを埋め尽くす魔物の群がそこにはいた。




「この数はまずい…引き返すぞ!」




来た道を引き返そうと振り向くとそこには…青白い見たことのない服を来た女がいた。




「あらぁ?あなたたち…ここの住民よりも強そうねぇ…街を救いにきた…とかかしらぁ?」




冒険者は恐る恐る聞いてみた。




「わ、私はレインと言います…あ、あなたは…人ですか…それとも魔物ですか」




それを聞いた女は微笑を浮かべこう答えた。




「そうねぇ…元は人間…今は…妖怪よぉ」




「妖怪…?それはなんですか?」




「あら…妖怪を知らないなんて…それもそうねぇ異世界だものねぇ」




よし!!魔術師が魔法を放つまでの時間は稼いだ!!




「今だ!!打て!!!!!!!」




レインの掛け声で一斉に魔術師が魔法を放つ。




「ファイヤーボール!」




「ウォーターカッター!」




「サンダーアロー!」




倒したか!?




爆炎の中からうっすらと人影が浮かび上がった。




「人間ごときが…!私に何をしたあああああ!!!!!!!!!」




般若のような形相になった女が現れると、周りの気温が下がっていくような気がした。




いや…気のせいではない!!




ふぅううっと女が吐息を吹きかけると、瞬く間にあたり一面氷に覆われた。




「こ、氷魔法か…!」




女は氷の吐息で今度は剣のような物を作り出した。




「これであなたたちを…じっくり切り刻んでやるわぁ!!」




女が氷の剣を一振りすると氷柱が地面から生え、冒険者たちを襲った。




「ぐはっ…」




「ひぎぃい…!」




くそ!!何人か串刺しになったか…!!




「魔術師は次の魔法を急げ!剣士は時間を稼ぐぞ!!」




女が一振り、二振り、するたびに地面から氷柱が襲いかかってくる。




女の剣を防げば地面からの攻撃でやられる…!




「死になさい!ふぅうううう!!!」




女の吐息に触れてはいけない!




「お前ら避けろ!!!」




逃げ遅れた剣士の腕を吐息が掠めた。




「うぎゃああ!!腕が…!!!腕があああ!!!!」




その剣士の腕を見ると真っ黒に変色し、次の瞬間、粉々に砕けった。




なんて威力の魔法だ…!




「さぁこれで終わりよぉおお!!」




トドメを刺そうと言わんばかりに今まで以上に強力な氷の吐息を吹き出した。




「ふぅううううううううう!!!!!」




ビュゥウウウウウウ!!と嵐のような音と共に冷気が迫ってくる。




「今だ!打て!!!」




私の合図で後方の魔術師による魔法攻撃が始まった。




「「「「ファイヤーボール!!!!!!」」」」




「ありったけの炎の魔法だ!!お前の氷など溶かしてくやる!!!」




氷と炎が正面からぶつかり合い、周囲に爆発の衝撃と煙が立ち込める。




「に、人間…がぁ…あぁ…おのれェ…!」




氷の女は、半身が溶け出していた。




「ど、どうやら…なんとか勝てたみたいだな…」




トドメを刺すため、魔術師にトドメの魔法の指示を出した。




「おい、雪女よ。大丈夫かー?」




我々の背後から声が聞こえたと思った瞬間、近くの建物を壊しながら巨大なスケルトンが現れた。声の主はそのスケルトンの頭に座っていた。




「ま…魔王…さま…」




魔王だと?まさかこの街を襲っているのは魔王の軍勢なのか?




「ふむ、大丈夫じゃなさそうだな。がしゃどくろ、そこにいる人間と遊んでやれ。」






魔王がそういうと巨大なスケルトンが動き出した。




「魔術師は魔法の準備を!!残りの奴らで時間を稼ぐ!!!」




からからと音を立てながら、がしゃどくろは腕を振り上げ、一気に振り下ろした。




ズドン!!!と激しい振動と暴風による砂埃で視界が一気に悪くなる。




「だ、大丈夫か!!お前ら!!!」




砂埃が消えると、見たくなかった光景が広がっていた。




「ま、魔術師たちが…全滅…」




頼みの綱だった魔術師たちは、巨大スケルトンにより、押しつぶされ肉の塊になっていた。




がしゃどくろは、からからと嘲笑うかのように骨を鳴らした。




この妖怪の恐ろしいところはこれからだ。




この街で死んだ人間たちの亡骸が、がしゃどくろの元に地面を転がりながら集まっていく。




がしゃどくろの体は複数の骸で構成されている。それは、戦死者やきちんと埋葬されずに供養されなかった者たちである。




その骸を集め、がしゃどくろはさらに巨大になっていく。




「おいおい…嘘だろ…ここは地獄か?」




レインは仲間たちの亡骸が巨大スケルトンに取り込まれていく光景を見て、死んでもコイツらから解放されないのだと絶望した。




完全に戦意を喪失したレインの頭上に巨大スケルトンの影が重なる。




地獄と化した街に爆音が鳴り響いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「いやー、みんな派手に暴れたなぁ」




魔王は変わり果てた街を見つめながら話す。




「魔王様!捕まえた人間はどうしますか?!」




小鬼たちが魔王に話しかける。




「ああ、そうだな…」




どうするかな…お!そうだ!




「その人間たちの皮を被って次の街へ潜伏せよ。そうだな、30体も行けばいいだろ。余った人間は全部食っていいぞ。」




さて、この世界の人間はどう動くかな…




「さあ、そろそろ朝だ。帰るぞー。」




妖怪たちは半透明になり、消えていった。




正確には消えたのではなく、街の裏側、裏の世界に行ったのだ。


下級妖怪は太陽の光に弱い。そのため、太陽が登っているうちは影に潜み、裏の世界からおちらの世界を見つめながら潜む。




妖怪たちは影からいつもこちら側を見ている。




「よし、我らの街は手に入れた…ここを妖怪の街にするぞ。夜だけじゃない。一日中、妖怪が住める街をな。」






にしても…街をボロボロにしすぎたか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る