第6話 超劣化版、防虫剤
三日が過ぎた。
幸いにもロバートさん、ビットさん、レベッカさんは一命を取り留めている。レベッカさんは長いこと寝たきりであるらしい。相変わらずレベッカさんの病気に対しての治療法は分からない。というか、どのように看病してよいのかも分からない。消化の良いものを作り、そして身体の汚れを布で拭き取っている。
ビットさんの下痢も相変わらず続いている。改善しているのか、さっぱり分からない。
ロバートさんは、まだまだ熱があるとはいえ、高熱ではなく、眠ることができるほどの容態にはなった。
高熱で苦しみ、失神して、また気がついて、また高熱で苦しむというサイクルから、熱で苦しむ、寝る、起きてまた熱で苦しむ、というサイクルになった。
熱が下がったという意味では容態は良くなっていると言っていい。
セト君、コゼットさんも元気だ。私も疲れていて、寝不足ではあるけど、元気だ。
ロバートさんが会話をする元気を取り戻したのも大きい。
「ロバートさん、食事ですよ〜。気分は如何ですか?」
「ソフィーさん、ありがとう」
ロバートさんは気怠そうではあるが、自分で上半身だけ身を起こして、壁に寄りかかりながら小麦粥を食べている。私は、ロバートさんの額の汗を布で拭く。
ロバートさんは、自分で起き上がって食事することができるまでに回復した。
私も素直に嬉しい。
もしかしたら、ロバートさんは、病気の山を越えたのかもしれない。そう思うと、気持ちが少しだけ明るくなる。
まだ、熱はあるし、体的には辛いだろうけど。
「汗、拭きますね」
私は絞った布でロバートさんの額の汗を拭く。発汗は続いている。
「ありがとう。命の恩人だ」
「そんな大げさな。ロバートさんの力ですよ。生命力が強いんでしょうね」
きっと、回復に向かっているのは、ロバートさんの体力によるものだろう。薬も作れなかったし、私がやったのは補助的なことでしかない。風邪薬とか抗生物質とかワクチンとか作れたら、きっと、あっという間に回復しただろう。それこそ、魔法みたいに。
「君のお陰だ」
ロバートさんは唐突に、額を拭いていた私の手をギュッと握った。真っ直ぐと私の顔を見ている。ブラウンの瞳。
「お礼なら、コゼットさんとセト君に言ってくださいね。あっ、私はビットさんの様子を見てきます。桶の中のもの、捨ててきます。ゆっくり、慌てずに食べてくださいね」
私はロバートさんのベッドから離れる。
少しだけドキッとしてしまった。
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ロバートさんは回復に向かっているとして……問題はビットさんとレベッカさんだ。
レベッカさんは相変わらずだ。骨折しているならカルシウムということで牛乳が良いのだろうけど、牛乳は高級品らしい。
駄目元でコゼットさんに言ってみたら、
「そんな金、どこにあるんだい?」
という答えだった。
ビットさんも、お医者様に一度診せた方がいいのではないか? と言ったけど、同じ答えだった。
「そんな金、どこにあるんだい?」
お金かぁ……。私だって無一文だ。
私があと改善できるのは、ノミとシラミの問題だ。糞尿は片付けることができるけど、ノミやシラミは、シーツを洗ってもなかなか落ちない。
すぐに繁殖してしまう。
髪の毛とかに生息しているのだろう。洗っても、洗っても、掃除しても掃除してもすぐに現れる。小さいけれど動物であるからたちが悪い。
対策はないだろうか……。
毎日、お風呂に入る。
却下だ。風呂桶とかないし。
シャンプーを使って髪を洗う。
いや……シャンプーってどうやって作るのだろう?
石鹸すら作り方が分からないのに。
あぁ〜どこかに百円ショップでもないかな〜と思ってしまう。
百円ショップの品揃えがあれば、劇的にこの状況を変えられる気がする。せめて、ペットボトルとかが欲しい。水を保存したりするのにすごく便利だ。軽いし、丈夫だ。
……でも、そんな妄想しても始まらない。ペットボトルとか石油製品ということしか分からないし、作りようもない。
ノミやシラミで悩むとか、元の世界ではペットを飼っている家とかだろう。犬や猫にノミよけの首輪を付けたり……そもそも、ノミよけの首輪の成分とか分からないし。
人間とペットを同じ扱いしてはダメだよね。でも……ペット用のノミ退治とか、ペットに悪影響がないから使われていたわけで……当然、使う人間にも影響が少ないから製品として成立していたはずだ。
ノミやダニをキャッチするベタベタのシート。
作り方分かんない……。
作れそうな防虫剤……ん?
そういえば、友達の家に遊びに行ったときに庭が真っ白で、何これ? って聞いたら、害虫対策で石灰を撒いたとか言っていたな。
殺虫効果があるのだとか……。
そういえば、口蹄疫が発生したときなんか、消石灰の生産が追いつかないとかニュースになっていたな。殺菌作用があるとニュースでやっていた。
石灰。
アルカリ性だっけ?
石灰って、なんかこの世界でもありそう?
いや、でも、ペットや家畜相手に使うのには有効かもしれないけど、人間様相手に石灰を撒くのは失礼にあたるだろう。人権侵害甚だしいか……。
いや……でも、理科の実験で、石灰水にストローで息をブクブクと吹き込んだら白くなった。そんなことをやった記憶がある。
学校のグラウンドに引く白いマーカーも、あれも確か石灰とか言っていたな。
家庭菜園とかの肥料としてもホームセンターに石灰って売っていた。
あっ。人間の身近なところでも石灰は使われていた。
ノミ・シラミ対策として、家の中に石灰を撒く。効果があるかもしれない。
「セト君、ちょっと水汲み任せた! 王都で探し物してくるね!」
「またサボりかよ!!!!!!!!」
セト君は不満を言うが、断じて私はサボるわけではない。
石灰。
この世界で使われているとしたら……肥料? いや、たぶんまだ使われてない。肥料が発明されていたら、輪栽式農法なんて必要ない。
石灰……なにに使われていただろうか?
石灰として粉ではあまり使われていない? 石灰石?
いや…前の世界で、石灰は、工事現場とかに袋で……積み重なって置かれていた。あれは何に使われていた?
石灰。
あのトラックだ! 樽みたいなのを積んでいるトラック。混ぜて、後ろからドロッとしたのが出てくるトラック。
思い出した! 生コン車!
そうだ! コンクリートだ! 石灰はコンクリートの材料だ。
石灰と砂利と水混ぜて、固めてた。
この世界にはコンクリートはないかもしれないけど、城壁など、石と石の間に塗られている接着剤っぽいのは、きっと石灰が使われている。そうだ、モルタルだ。
前の世界で、水道橋とかコロッセウムとか作った古代の帝国も、モルタルで道路を整備したはずだ。この世界でも、お城は石造りだ。
モルタル、きっとあるはずだ! そして、その材料の石灰もあるはずだ。
上手く行けば、ノミ、シラミを一掃できるかもしれない!
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