【次回予告】はチートスキルですか？ いいえ、特にそんな事はなかったのでケモ耳美少女の嫁のご両親方に鍛えられてから異世界を廻る事になりました。 三界見聞録〜陸の書〜

第28話 香草狼牛肉の可能性

　異世界産の謎肉は食べ重ねていくとカレーの味になりました。

　何を言っているか分からないかもしれないが本当なんだ。

　一種類のスパイスかハーブの味が染み込んだ牛肉が何種類もあって、偶然なのか違う種類の肉になるよう食べていくと口の中で混ざってカレー味の肉になってしまう。

　舌を水で洗うように飲むと水がカレー味となる。

　まさかカレーが飲み物になる時が来ようとは……正確にはカレーな飲み物だけど。

　カレー味の口内を水でリセットして、何種類かの肉を食べ再びカレー味の口内になるのを何回か繰り返しているとタイガさんが焼いていた塊肉の重ね焼きが運ばれてきた。

　流石に串に刺した肉の塊の状態ではなく、食べやすいサイズのサイコロ状にカットされている。

　お腹が膨れてきたところだったが、スパイシーな香りが食欲を刺激してくる。まぁ、匂いはカレーのそれなんだけど完成度が別物だった。

　今まで口の中で作ったカレー味は素人がそれ用のスパイスで作ったカレー風でしかなかった。

　噛むと肉汁が溢れ、口の中で幾重にも合わさったスパイスと肉の脂の旨味が相乗効果を発揮する。

　永遠と食べていられる気がする肉だが、日本人の血が米を欲している。この肉はまだ完成形ではないと俺の魂が叫んでいる。

　そんな俺の魂の叫びに応えるかの如く運ばれてきた焼きおにぎりに齧り付く。

　醤油も何も塗ってないただ焼き目をつけただけのおにぎりだがそれでよかった。

　パリッとした硬めの食感の後に、ふっくらとした炊き立てのお米のもっちり感が心地いい。

　刺激的な肉汁とスパイスのハーモニーを白米が包み込む——俺は今、カレーライスを食べている！

　香草狼牛（ハーヴルフ）の重ね焼きと焼きおにぎりを口内で融合させ、カレーライスの余韻に浸っていると脳内に囁く声があった。

　『このカレーにはまだ先がある、そして重ね焼きには別の形態がある』と。

　足りないのは野菜、幸いにもタマネギとニンジンにジャガイモの焼かれた品が運ばれてきている。

　材料はある——あとは作るだけだ。

「ウナ、鍋ってある？」

「あるけど……どうして？」

「ソラ！　何か思いついたの？」

「じゃあ取ってくるわね」

　ウナが鍋を取りに行ってくれた。

　その間に重ね焼きのもう一つの可能性を試す事にしよう。

「ティアナ、ハンバーグって知ってる？」

「んー聞いたことある気がするけど……ソラ、もしかして作り方知ってるの？」

　俺はティアナに頷いて返し、今も重ね焼きを作っているタイガさんとマシブさんの所へ移動した。

　頼むなら筋肉のあるマシブさんだろうか。

「おや？　ソラ君、どうしたんだい？」

「あの、それ焼くの待ってもらっていいですか？」

「それは構わないけど、何を作る気かな？」

「ハンバーグって知ってます？」

「何！？　ハンバーグだと！？」

　思わぬところから反応が来た。

「知っているのかい、タイガ」

「ああ、硬いすじ肉を使っても柔らかく肉を食べられる料理だ。郷に顎の力の弱い者などいなかったからレシピを取り寄せることはしなかったが、聞く話によるとステーキよりも好む者もいるそうだ」

　ハンバーグはすでに存在する料理のようだ。

　俺の持つ知識程度では知識チートは難しいというか無理っぽい。

「それでソラ君、どうすればいいんだい？」

「今焼こうとしていた塊肉を重ねた物をミンチにして、粘り気が出るまでこねてから形成して焼くだけです。かなり力がいるかもしれないですけど」

「まさかハンバーグは筋肉料理だったとはね。

　分かったよ、僕に任せてくれ。

　タイガもやるかい？」

「いや、俺はこの重ね焼きを焼かねばならん。

　まだネコナとマチヨの分ができてないからな」

　『力のいる料理』＝『筋肉料理』らしい。

　そんなことは置いといて、肉を分けて貰わないとカレーが作れん。

　マシブさんは道具を取りに行ってしまったので、タイガさんに頼むことにした。

「なに？　重ね焼きの肉を分けて欲しいだと。

　そこに余っている肉があるから持って行け」

　指し示された方向にまだ串に差す前の香草狼牛の肉が何種類も置いてある。

「あの、できれば重ね焼きに使う配分で欲しいんですけど」

「なぜだ？」

「さっき食べた重ね焼きが絶品だったので」

「はっはっはっ！　それを早く言わんか。

　この配分と同じ割合になるように持っていけ」

　配分を教えてもらい、その割合になるよう必要な分の肉を持って戻るとウナが鍋を持ってきてくれていた。

「家のキッチンから持ってきたから大きくないけど問題無かった？」

「たくさん作って失敗したらもったいないし大丈夫だよ」

　家庭用の鉄製の鍋を受け取り、貰ってきた肉と運ばれてきた焼き野菜を入れ水を魔法で注ぐ。

　さっき魔力が枯渇したばかりだが、気合と食事のおかげでなんとか注ぐことに成功した。

　後は煮込むだけだ。

「ソラ！　もう完成？」

「ティア、まだ煮込まないとダメよ。

　でも私も昔同じようにやって水っぽくなって失敗しちゃったけど大丈夫なの？　ソラ」

　すでに実験済みだったのか……とりあえずジャガイモを追加してよく煮込むか。

　目の前バーベキューコンロの炭の配置では保温しかできないので、網の上に置いた鍋の下に炭を集め火力を調整し煮込み始める。

　肉に染み込んでいたスパイスが早速水に溶け出し色がカレー色に染まっていく。

「嘘！？　私が試した時はこんなに直ぐに色は出なかったのに……」

「ウナちゃん、たぶんこれソラが魔法で出した水のせいだよ。家でお茶で試した時お茶の成分が出過ぎてお茶っ葉の味になったくらいだから」

　カレー色に染まった鍋の中をかき混ぜる。

　まだ水っぽく、スパイスが溶け出しただけのようで煮詰めていく必要がありそうだ。

　ティアナとウナは昼食の時に俺の魔法で出した水の使い道の話で盛り上がっている。

　会話が盛り上がっている女子の間に入っていけるトーク力など無い。でなければ十年後に魔法使いになっているなんて予想しない。

　二人の会話を聞き流しながら運ばれてくる料理を摘み、鍋をかき混ぜ続ける。

　少しとろみが出だした時だった。

「ソラ君！　言われた通り作ってみたよ！

　是非とも試食してくれないかな」

　興奮気味のマシブさんがハンバーグ片手にやってきた。本人はすでに試食しているようだ。

　ハンバーグは三つある。

　ティアナとウナも興味津々で見ている。

　それぞれハンバーグを受け取って齧り付く。

　重ね焼きに比べると格段に柔らかく、溢れ出てくる肉汁は肉汁に溺れるかと思うほどだ

　スパイスの染み込んだ肉汁は極上のスープカレーのようで、気付けばハンバーグを平らげてしまっていた。

「「「おかわり！」」」

　一人一個で足りるわけがない。

　相談せずとも同じ結論が出ていた。

「おかわりはもう少し待ってくれるかな。

　キーン、ニック、ドゥーテの三人にタイガの配分した肉をミンチにさせているから」

　筋肉芋達ってそんな名前だったのか。

　その三人はコンロで肉を焼くのをやめ、肉を必死でミンチにしていた……重りを付けたまま。

　『筋肉料理』＝『鍛錬にもなる料理』でもあるようで、門下生である彼らに任せたらしい。

　ミンチにされた肉はネコナ母さんとマチヨさんの手によって次々と形成されていく。

　空気抜きもしっかり行われ、膨らむ中央部を軽く凹ませている時点で俺からの助言など必要なさそうだった……そもそも助言は求められていなかった。

　試食してとしか言われなかったもんな。

　形成された肉ダネはタイガさんによって鉄板の敷いてあるバーベキューコンロで焼かれていく。

　料理を運んでいた組手人形達が使われなくなったバーベキューコンロの網を鉄板と交換している。

　着々とハンバーグの量産体制が進んでいた。

　バーベキューではなくハンバーグパーティーが始まろうとしていた。