第27話 慣れないモノは咄嗟の時に思い付かない

 全てのバーベキューコンロの火起こしが終わり、もっと効率的な方法があったと反省していると下拵えの済んだ食材達を持って皆集まってきていた。

 大半のコンロは網が敷かれ、残りは串に刺した肉を回しながら焼いたりする用の台がセットされたり鉄板が置かれたりしている。

 火起こしの方法を考えるのに必死で気が付かなかったが、炭の配置が何種類かある。

 俺が今までにやってきたバーベキューでしていたのは炭の量を三段階にして焼く際の火力を選べる配置だけだ……食材や調理法別でコンロを分けているのだろう。バーベキューはよくやる方だと思っていたが、彼等には及ばない……出しゃばるのはやめておいた方がいいな。食べる専門でいこう。


「ソラ! こっちこっち!」


 ティアナに呼ばれた方へ移動すると一つのコンロを囲うようにサイドテーブル付きの椅子がある。

 右に飲み物、左に食べ物を置く用にデザインされ使い勝手の良さそうな椅子が三つだ。

 コンロの炭の量は少ないのはここで焼いて調理する気がないのだろう。保温効果ぐらいはありそうだが……もしかして食べる専門の人用のコンロか。

 他二つの椅子にはティアナとウナが腰掛けた。

 どうやら二人も食べる専門らしい。


 残りの多数のコンロの方を見ると配置が変わっている。メインで肉を焼く担当はまさかの筋肉芋達の三人だった。一人三台のバーベキューコンロを担当し、肉をどんどん焼いていく。

 使っているコンロは全て網の敷いたコンロで、他の鉄板や回転焼きは担当しないようだ。


 肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。

 三人とも両手でトングを持ち、次々と肉を翻し、焼き加減を見極め肉を移動させながら焼いていく。

 もうすぐ第一陣が焼き上がりそうだ。

 このまま待っていていいんだろうか、なぜか重りを全身に装備しながら肉を焼いている彼等に焼けた肉を持って来てもらうのは気が引ける。

 どうするべきかとティアナとウナを見るが、二人とも焼ける肉をじっと見ていて動く気配が無い。

 ネコナ母さんとマチヨさんは肉以外の食材を焼いており、タイガさんとマシブさんは回転焼きの台で串に刺した肉をクルクルと回している。


 どう考えても料理を持ってくる役の人はいない。

 立ち上がって肉を取りに行こうかと考えていると動く人影が目に入った。

 まだ他に人がいた……訳では無かった。

 その人影には顔が無い。

 服を着た木製の人形が焼き上がった肉の乗った皿を持ってこちらに歩いてくる。


「ゴーレムってやつか」


「違うよ?」

「あれはお母さんが傀儡魔法マリオネットで組手人形を操ってるだけよ。確か……運動場でソラを氷霧の中から引っ張り出すのに使ってたわ」

 

 ああ、あの白い煙から引っ張られたあれか。

 でもマチヨさんこっち見ずに操ってない? それも全部で三体……。


「いっただっきまーす!」

「なにそれ?」「食べる時の挨拶らしいよ?」

「そうなんだ。じゃ、私もいただきまーす!」

「「うん、美味しい!」」


 料理を運ぶ組手人形に気を取られていたら、二人が肉を食べ始めたので俺も「いただきます」の挨拶をしてから肉を口へ運ぶ。


「「あ、それ——」」


「か、辛っ!!」


 強烈な胡椒の辛味が口内で炸裂した。

 確かに胡椒の香りがしたし、少し黒っぽい色の肉だったがここまでとは……。


「それ他の肉と一緒に食べないと辛いよ?」


 ティアナ、それはもっと早く——って言う暇は無かったな。

 辛さに悶えながらそう考えているとウナがコップを渡してくれた。

 助かった、水が欲し——って入ってない?!

 ウナの方を振り向く。

 ウナは首を傾げる。

 あ、可愛い……ってそうじゃない。

 水! 水、水……水? そうだ、魔法で出せるんだった。


 コップを両手で挟み、コップごと手を合わせる形にして魔法を発動して水を注ぐ。

 適度な水量を注いだら水を止め、一気にあおる。

 相変わらず味のしない水は胡椒の辛味を引き取って喉元を過ぎる。

 口の中にはまだ胡椒の風味が広がっているが、辛味は去ったので食事を再開できる。


「ソラ、ネコナさんがヤカンに水を入れてって」


 そう言ってくるウナからヤカンを受け取った。

 食べる専門になっている引目があったので、即座にヤカンを両手で挟んでヤカン越しに手を合わせ水を生成して注ぐ。


「ついでに沸かしてって」


 今度はティアナ経由で来た注文オーダーに対応する。

 ヤカンの取っ手を左手で持ち、ヤカン横で右手を捻ってヤカン内の水に直接点火。

 一瞬で火は消えたが、これで沸いたはずとヤカンをティアナに渡す。


「ソラ、これぬるいよ?」

「あ、あれ? ごめん魔力が足らなかったみたい」


「本当に気絶しないんだ。ティアナの言ってた通り魔力枯渇で気絶どころか顔色も変わらないなんて、羨ましい体質ね」


 そうやって言うってことはウナは魔力枯渇で気絶するみたいだな。

 ちなみにヤカンは組手人形に渡されて運ばれていった。

 

「うな〜う!」


 足元から猫の鳴き声がした。

 猫形態の白い騎虎ライドラ、トーラだ。

 そっか〜お前も来てたのか〜。

 箸や皿を置いてトーラを撫でる。

 トーラは喉を鳴らしながら、何かを求める様な眼を向けてきた。

 ご飯か……この肉あげて大丈夫かな。


「トーラ、あっちでお父さん達が塊肉焼いてるよ」


 ティアナの声を聞いたトーラは行ってしまった。

 トーラを視線で追うと、タイガさんが回転台を使いながら串に刺した塊肉を焼いていた。

 横向きのケバブみたいだな。

 よく見ると色味が微妙に異なる塊肉を重ねる様に刺しており、まるで丸焼きの様でもあった。

 焼き上がった一本丸々をトーラに与えているが、あの小さな身体で食べ切れるだろうか。


 その心配は無用だった。

 トーラは虎形態とでも言ったらいいのか、草原で俺と衝突した時と同じ大きさになっていた。

 でかい猫ってのも悪くない……虎だけど。

 見事な食べっぷりで、見る見るうちに肉の塊が小さくなっていく。あの肉旨そうだな。


「ソラ、食べないと無くなるよ?」

「あ、水くれる? ティアナに味のしない水って聞いて飲んでみたいの」


「あ、ああ」


 ウナの差し出してきたコップに魔法で水を注ぎ、肉を取る。

 この黒っぽいのは単品だと辛いから……隣の少し赤味の入った肉と一緒に口に入れる。


「「あ、それ——」」


 またか! 


「辛ぁぁぁ!」


 今度は唐辛子と胡椒の辛味の二重奏だった。

 さっきの三倍の辛さが口内を暴れ回る。

 辛味と肉の旨味が絡み合って味は極上だが、それを味わう余裕を吹き飛ばす辛さに襲われる。

 コップに水を生成して飲むが、辛さは引くどころか舌全体に広がって余計に辛い!


「ソラ、そんなに辛いの好きだったの?」

「違うわよティアナ、あれは一番辛い組み合わせを偶然引いて悶えてるだけよ」


 そんなこと言ってないで助けて、と二人に助けを求めると肉を差し出される。

 赤くも黒っぽくも無いけど……少し茶色かな?

 しかし、色など気にしている余裕など無い俺は藁にもすがる気持ちで差し出される肉を食べていく。

 甘い香り……ナツメグ? こ、こいつはシナモンに……これはバジルか、ニンニク風味や生姜風味の肉もある。

 辛くない肉をどんどん食べていくと辛さも紛れ、なんとか落ち着いてきた。

 ただ口の中では色んな味が混ざって、最終的にはカレーっぽい味が広がっているのは何故だ。

 喉を潤す為に水を生成して飲んだら、味が溶け込みカレーを飲んでる気分になった。

 肉の味は牛っぽかったけど、何の肉だったんだ。

 ちょっと聞くのが怖いが聞いてみる。


「これって何の肉だったの?」


「何って香辛獣の香草狼牛ハーヴルフだけど」

「匂いの強い葉っぱだけ食べてる狼みたいな牛」


 とりあえず人型の魔物じゃないのは間違いないっぽいけど……家畜でもなさそうだな。

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