第29話 ハンバーグとカレーがあったら合体させるよね

 ハンバーグパーティーの始まりは鍋で煮込んでいたカレーの完成と同時だった。

 大皿に山の様に積まれたハンバーグを組手人形が運んでくる。

 すでに結構食べている俺達は三人で一皿だが、肉を焼き続けていた筋肉芋の三人や男親の二人は一人一皿……一山食べるらしい。

 ハンバーグを一つ食べる毎に加速するように食べているのが見える。すでに手掴みだ。

 上品に食べるネコナ母さんとマチヨさんとの対比が文明人と野蛮人みたいだった。


 勢いよく食べる姿に釣られて、何個かハンバーグを胃に収め……いかん、このままでは鍋のカレーを食べる余裕が無くなってしまう。

 ハンバーグの誘惑を断ち切る思いで、鍋でカレーを煮込んでいる間に炊いてもらった白米を皿の半分くらいに盛り付ける。

 ハンバーグが半分白米の上に乗るように置き、鍋からカレーを掬ってかけて完成……誘惑断ち切れてなかったな、ハンバーグカレーになってる。


 ティアナとウナもハンバーグを食べる手を止めて見ていたので、二人の分も盛り付けて渡す。


「これよ、これが私の作ろうとした料理の完成形」

「ウナちゃん、これ作ろうとしてたんだ」


 そういえばウナも同じようにやって失敗したんだったか。しまった……味見してない。

 大丈夫……水っぽくないし、ドロっとして見た目も香りもカレーそのもの。


 覚悟を決めて一口。


 不安になる必要などなかった。

 当然の如く美味だ! これでまだ一晩寝かせてないのが恐ろしくなってくるぜ。

 香草狼牛ハーヴルフの重ね焼きの時点で既に完成形だったカレーの味に野菜の甘味が加わることで味に深みが生まれ、美味さが一段階……いや三段階くらい進化している。

 そして個体から液体のカレーとなったことで口当たりがマイルドになり箸……スプーンが止まらん。


 ほぼ満腹に近かったのに一皿完食したしまった。

 正直、食べ過ぎて苦しい。

 でも満足だった。

 異世界に来て家のカレーやチェーン店のカレー以上のカレーを食べられるとは思わなかったな。

 後は吐かないよう耐えるだけ。


「「美味しい!」」


 ティアナとウナも満足してくれたようだ。

 美味しそうに食べてくれる二人を見ていると、背後から肩に手が置かれた。

 その軽い衝撃でさえリバースの引き金になりそうだったが、肩に置かれた手から温かい何かが流れ込んでくる感覚と共に楽になった。


「ソラ君、美味しそうねソレ。あと何か耐えてるみたいだったから活性の魔法かけておいたわ」


 背後にいたのはマチヨさんだった。

 魔法で楽にしてくれたらしい。

 お礼と共に新しい皿にカレーを盛り付けて渡す。


「ありがとうございます。楽になりました。

 良かったらカレー食べます?」


「どういたしまして。

 カレーって言うのね、いただくわ」


 カレーを受け取るマチヨさんの背後にハンバーグを食べていた筈の残り六人全員が皿を持って並んでいた。

 

「食べます?」



「「「「「「食べる!!」」」」」」



 カレーの量はギリギリだった。

 おかわりは無いと告げると、すでにカレーを食べ始めていた面々からは残念そうな声が上がった。

 評判は上々のようでなによりである。

 食べ足りない人は自分の席へ戻りハンバーグを食べてお腹を満たしていくのだった。



 食休みに椅子の背もたれにもたれ掛かり異世界の夜空を眺めていると、人の寄ってくる気配がした。


「ソラ君、彼らが話をしたいそうだけど」


「あ、マチヨさんさっきは魔法どうもです。

 彼ら? ああ、筋肉芋……じゃなかった門下生の方達が何の話を?」


「……筋肉芋? 確かにピッタリね。

 あなた達、話の前にちゃんと自己紹介なさい」

「あの、ウナも筋肉芋って呼んでましたよ?」

「そうなの? まぁいいわ。ほら早く来なさい!」


 呼ばれた筋肉芋達は誰から自己紹介するかで揉めていた。誰からでもいいっての。


「んだらばオラさからいくで。

 オラはキーン、キーン・トット」

「次はオラの番だかや。

 オラはニック、ニック・ナゴヤネン」

「んでオラがドゥーテ、ドゥーテ・イデイモン」


 自己紹介されたが見分けがつかん。

 別に同じ顔って訳じゃないが、似たような芋っぽい顔つきで判別に苦労しそうなので覚える気にならない。

 落ち着いてそうなのがキーン、がっついてそうなのがドゥーテでその中間っぽいのがニックかな。

 うん、雰囲気と話の流れで適当に名前を当てればいいや。ちゃんと覚えるのは付き合いが長くなってからで十分だろ。


「それで三人合わせて『筋肉芋』と」


「んだ? 筋肉芋?」

「筋肉芋だか?」

「筋肉芋だべか?」


 ちょっと不満そうだ。


「名付けたのはウナよ?」


 マチヨさんからの援護射撃が入った。


「「「オラ達は三人合わせて筋肉芋だ」で」よ」


「いや、最後まで合わせなよ……」


「「「オラ達は三人合わせて筋肉芋だでよ」」」


 別にもう一回言わなくても……素直なんだな。


「話っていうのは、彼らは一ヶ月後くらいに門下生を終えて筋肉都市マスルツへと郷を出るの。

 それで向こうでもソラ君から教わったハンバーグを作る許可が欲しいらしいのよ」


 マチヨさん……話の内容教えてくれるなら彼らの自己紹介とか話す必要も無かった気がします。

 ハンバーグ作るのに許可がいる理由がよく分からないが、特に問題なさそうなので許可しておいた。


「おお、ありがとうだでよ。

 オメェさも明日からの鍛錬頑張るでよ」

「でも初日の鍛錬はアレだかや」

「あーアレ精神的にキツいだきゃ」


「あら、傀儡式形稽古鍛錬法マリオネット・フォーミングはしないわよ」


 今なんて? いや、なんとなく分かる。

 運動場で俺を引っ張った魔法で身体を操って正確な筋トレの型を身体に覚えさせるのだろう。

 筋トレは正確にやらないと効果が減るからな。

 身体を勝手に動かされるのは確かに精神的にキツそうではあるが、正しい型を覚えるのには良いのかもしれない。やらないみたいだが。

 


傀儡式形稽古鍛錬法マリオネット・フォーミングでは微温ぬる過ぎるもの。

 ソラ君がやるのはマシブの動きとソラ君の動きを連動させて鍛える主従式強制鍛錬術マスタースレイブ・プログラムに超活性の魔法を合わせて行うまだ名前も決めてないソラ君専用の鍛錬計画だから」


 より強度の増したモノをやらされるらしい。

 筋肉芋達からの羨む視線が哀れみの視線へと変化していく。

 たぶん彼らも経験があるやり方みたいだが、視線の意味が気になる。

 

「あ、ティアナちゃんとウナも鍛錬内容は違うけど一緒に鍛錬するから頑張ってね」


 俺が女の子と一緒に鍛錬すると聞こえても彼らの哀れみの視線が変わることは無かった。

 

 

 

 キツくない鍛錬なんて鍛錬じゃない、鍛錬が過酷なほど強くなれる。死にたくないなら鍛えるしか、強くなるしかない。覚悟を決めろ。

 自分の知る星の無い異世界の星空を眺めながら、四方に浮かぶ四色の月を眺めながら覚悟を決める。


「マシブさん、マチヨさん明日からの鍛錬よろしくお願いします!」


「うん、任せてよ」

「覚悟をできてるわね」

「「ソラ……」」

「うむ、その意気だ」

「頑張るのよ」


 それがバーベキューのお開きの合図になった。

 片付けも終わり、それぞれ帰路へつく。

 筋肉芋達はジムへ、マシブさんとマチヨさんは自分達の家へ、残りはティアナの家へと向かう。

 ウナもティアナの家に泊まるらしい。

 


 昼から日の暮れまで寝ていた……正確には気絶していたのに、眠くなってきた。

 ティアナの家へ着く頃には立っているのがやっとの状態だ。すごく……眠……い……。


「ソラ! お風呂の支度ができるまで何して遊ぶ?

 あ、お風呂は一緒じゃないからね!」

「あ、当たり前でしょ!?」

「えー、ウナちゃんは一緒に入ろうよ!」

「はぁ?! な、ななに、何言ってるのティア!?

 出会ったばかりの日に一緒にお風呂なんて」

「え? 一緒に入るのは私とウナちゃんだよ?

 ソラと入る気だったの?」

「んな?! 紛らわしいのよ、もう!

 ソラもなんか言ってやって! ……ソラ?」

「あ、ウナちゃん……ソラ寝てるよ」

「立ったまま寝るなんて器用ね」


 なんだよ……まだ、寝てな……い……。

 その後、二人が何か言ってた気もしたが意識が飛びかけていてよく覚えてない。

 覚えているのは二人に客室へ案内されて、ベッドに倒れ込む前に二人へ「おやすみ」と告げたところまでだ。


「「おやすみなさい」」

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