第20話 保護者ら状況観察中

 鍛える当人達を抜きに鍛錬法を相談するらしい。

 マシヴさんもマチヨさんも鍛え上げられた肉体をしていたので、肉体を鍛えるプロなのだろう。

 正直どんな訓練メニューが組まれるか不安だ。

 二人の娘である彼女なら何か分かるかな。


「えっとウナちゃんって呼んだらまずいんだよね。

 なんて呼べばいいかな? 

 俺はソラ。真名は里神さとがみ 空太郎くうたろう


 ウナってのは真名の一部みたいだから一応俺も真名を名乗っておくことにした。

 俺が真名を名乗ったことに彼女は驚いている。

 いや、ショックを受けてるようにも見えるな。


「そう、貴方も真名の風習を軽んじるのね……」


 あれ、誤解をしてないか。


「待った! 『ウナ』が真名の一部みたいだから、それを聞いてしまった俺も真名を名乗るのが礼儀かと思ったんだ。それにティアナの親友なら真名を隠す必要も無さそうだし」


「し、親友!? も、もうティアナったら……そういうのは直接言ってよね。わ、私も、その、あの、ティアナのこと親友だと思ってるから!」


「言って無いよ?」


「へぇ!? な、な、な……」


「でも、私もウナちゃんは親友だと思ってるよ?」


「あた、当たり前じゃない……(良かった〜)」


 照れたり、絶望したり、ホッとしたりと百面相する彼女は見てて面白いな。小声があんまり小声になってないし。

 蒼髪ロングでクールな印象だったけど、結構感情豊かな女の子で可愛らしい。

 ん? 女の子……待って、今、俺、美少女二人と話してる。ちょっと緊張してきた。


「そ、それで、あの何て呼べばいいかな?」


 やべ、声裏返った。


「アグーナでいいわ。ってなんて声出してるのよ」


「いや〜その、今更ながら美少女二人と会話してると思ったら緊張してきちゃって……」


 って、なに正直に喋ってんの俺ぇぇぇ……ダメだ緊張で頭が回らん。どうしよう。


「ふふふ〜ウナちゃん、私達美少女だって!」

「は、はぁ? あ、当たり前じゃない! だって私達はママやネコナさんの娘なんだから当然よ!

 (わ、私がハーフなのとか気にならないわけ?

 どうしよう、男の子に容姿を褒められたのなんて初めてよ……顔赤くなってないかしら)」


 自分以上にテンパり始めたアグーナを見てたら、落ち着いてきた。あんまり小声になってないし。


「別にハーフとか気にしないよ、むしろカッコいいとか思うけど?」


「え! あれ、口に出てた!?」

「思いっきり喋ってたよ、ウナちゃん」


「にゃぁぁあぁぁ!」


 アグーナは顔に手を当て、り絶叫した。

 そう仰け反られると胸に目が行きそうになる……もちろん顔を横向けて目は逸らしましたよ?

 ティアナと変わらないサイズですね。


「どう? ソラ、ウナちゃんって可愛いでしょ」

「へ? あぁ、うん。そうだね、可愛いね」


 ティアナはどことなく自慢げだ。

 この様子だと俺の視線には気付かなかったみたいだな。女性はそういう視線に敏感だと言うけど二人はそうでもないのかもしれない。いや、油断は禁物か……アグーナはテンパってたし、ティアナはそれに意識をとられていた。気付かれなかったのは偶然だと思って気を付けよう。


「か、可愛いって……えへへ……」

「照れてる」「照れてるな」


「あ、もう! ティアナの方が可愛いわよ!」

「えーウナちゃんの方が可愛いよ?」


 少女達は互いを褒め合い、判定を委ねるように俺の方を見る。

 いや、そこでこっち見られても……判定しないとダメなのか。無理だって。


「二人とも可愛い……じゃ、ダメか?」


「いいよ!」「いいわ!」


 いいのね……それで。

 このまま話してるのもいいけど、喉が乾くとあれだしお茶でも入れるかな。

 二人には座って話しててと伝え、机の上にあったガラスのポットの蓋を開ける。

 ポットの上で手を合わせ水の魔法を発動。

 水が手にかかる前に手をどけポットに水を注ぐ。

 適度な量を注いだら水を止め、取手を持って左手で持ち上げる。

 ツマミを捻るように右手を捻り、ポットの水中に点火。

 火が消えぬよう意識するが、火は一秒も持たずに消えてしまう。

 一呼吸置いてから再点火。

 すぐに火は消えたがお湯は沸いた。


 しまった、茶葉が無い……近くにそれっぽい容器があったので中を確認するとお茶っ葉があった。

 茶葉を一つまみ取りポットの茶こし網に入れる。

 お湯が紅く染まっていく……かなりの勢いで。

 ポットを軽く揺すると、中は紅く透き通った液体に満たされる。

 茶葉の辺りは色が濃くな……嫌な予感がする。

 慌てて茶こし網を取り出し、少しカップに注いで味を確認する。


 濃い目の紅茶だった。

 飲むと芳醇な茶葉の香りが鼻に抜け、僅かな渋みと深い茶葉の甘味を感じる気がする。

 適当に入れた割に上出来だけど……飲み慣れた人向けの味だと思う。子供向きではないな。

 でも、飲んだら魔力切れで気分が少し悪かったのがマシになったな。


 改めてカップに三人分注ぎ、ポットとカップを持ってティアナ達の元へ運ぶ。


「ね、ねぇティア、大人になるってどんな感じだったの? やっぱり痛かった?」

「大人? 何のこと?」

「彼、ソラと一線超えたんでしょ?」


 猥談してやがった……いや、ティアナはよく分かってないみたいだから違うか? まぁでも、近くに男がいるのにする話題ではない。

 興味が湧くお年頃なのは分かるけど、どうして俺とティアナがそんな関係になってんだよ。

 確かに俺も興味津々だけど……まだそんな関係には至ってないはずだぞ。少なくとも精神的にはまだ未経験……いや、なんでもない。

 一先ず咳払いして、俺が来たことを知らせてやった。


「うにゃあ! い、いたの?!」

「あ、ソラお茶ありがと」


 案の定アグーナは飛び上がるほど驚いていた。

 いたよ、ってかさっきまで話してたよな。


「言っとくけど、事故から目が覚めたら隣で何故かティアナが寝てただけで何もしてないからな」

「そうなの? え、でもなんでティアが隣で寝てるのよ」


「早く意識が戻らないかなって見てたら、ソラって落ち着く匂いするし……パジャマも肌触りが良くて寝心地良さそうで眠くなってきたから、つい」


 本当に何もなかったようだ。

 ちょっとだけ期待したのは秘密。


「つい、じゃ……ない! 紛らわしい言い方しないでよね! もう! それにパジャマって何!」


「パジャマは簡潔に言うと、着る寝具さ」

「着る寝具ですって……詳しく!」

「あ、お父さんが詳しく調べさせて量産するって」


 タイガさんやネコナ母さんもだけど、パジャマに食いつき過ぎじゃないか……猫系獣人だから睡眠にこだわってるのかな。無論、パジャマについて詳しく説明しておいた。


「それにしても、ティアに先を越された訳じゃなくてホッとしたわ。そうよね、お互いの真名を知ってない関係で一線は超えないわよね」


「知ってるよ? あと、呼び方ティアに戻ってる」


「はぁぁ?! 知ってるってどう言うことよ!

 ティア、貴方まさか教えたの?! 貴方は族長の娘なのよ、意味分かってるの?」


「お母さんに聞いたからバッチリ分かってるよ!」


「そんな……それだとティアに先を越されるのは時間の問題じゃない。良い男探そうにも郷の男子連中なんて似たり寄ったりだし……はぁ、どこかに良い男いないかしら」


 アグーナは彼氏募集中らしい。

 「ここにいるぜ!」とか冗談で言ってみたいが、ティアナにプロポーズしたことになってる手前できない。二人とも可愛いので二人とも……なんて思わないでもないが、それは調子に乗り過ぎだろう。

 自分で言ってなんだが、俺は良い男ではない。

 

「いるよ」

「本当? どこにいるのよ」

「ふふふ、目の前にいるじゃん! ウナちゃんも匂い嗅いでみなよ、落ち着く匂いするから」

「ティア……それじゃあ失礼して」


 ティアナさん!?

 貴女は何を言っていらっしゃるので……いかん、ティアナの予想外の発言にテンパった。

 アグーナは俺の了承を得る前に寄ってきて、匂いを嗅ぎ始めた。あ、汗かいてないし大丈夫だよな。

 一日に何度も体臭嗅がれるとか、そんな特殊な趣味は無いので勘弁願いたい。


「どう? ウナちゃん」

「確かに……なんだが落ち着く匂いがするわ」


 アグーナさん……貴女もですか。

 匂いを嗅ぎ終えて離れてくれたのはいいけど、俺はどう反応したらいいんだよ……二回目だけど分かんねぇよ。


「ねぇティア、貴女は彼を一人占めしたいとは思わないの?」

「うん。ウナちゃんも一緒になれば、ウナちゃんも家族でしょ? 私はそっちの方が良い」


 えっと、どういうことだ……分からん。一体何がどうなってる……え、良いの?


「ソラ……いえ、里神空太郎……私の真名を教えてあげる。良く聞きなさい、私の真名は

 アグ・ウナ・マリア・レッヘンヴァイン

 その、貴方も私をウナって呼んでもいいのよ」


 最後は照れたのか、顔を背けながら言うのが可愛らしかった。




 扉が音を立て、勢いよく開く。


「いやあ、めでたい! おめでとう、ウナ!

 今晩はティアナちゃん達も呼んでご馳走にしようじゃないか!

 ソラ君! ウナのこともよろしくね!」


「お、お父さん!? 聞いてたの?!」


 上半身裸のマシヴさんがポージングを決めながら入ってきたのだった。

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