第17話 お勉強はご飯の前に

 魔法の使い過ぎで少し気分が悪くなった。

 話によると魔力の残りが半分近くになったため症状が出たらしい。

 これ以上使えば症状は悪化するはずだが……まだ使えると言われ、どうするべきか迷っている。


「魔力の枯渇にはある程度慣れておいた方がいいわよ。でないともしもの時、動けなくなるのは困るでしょ?」

「でも、ソラ辛そうだよ?」

「だからよ。私たちがいる安全な状態で慣れるよう頑張った方が安心でしょ」

「確かに」


 ティアナは言いくるめられてしまった。

 これでは魔力枯渇まで魔法を使う羽目に……でもネコナ母さんの言うことには一理あるか。

 己の限界を知っておくのは異世界で生きていくのに重要かもしれない。

 そう思い、ナベの方のコンロに点火した。

 火力調整は忘れずに。


「ふふ、頑張ってねソラ君。ってもう限界なの?

 火が消えてるわよ」


 点けたはずの火が消えていた。なぜだ……再点火しようとするが火は出ない。

 気分の悪さもさっきと変わらないのに。

 念の為に、水と風の魔法を使ってみるが何も起きなかった。


「ティアナ、お父さん呼んできて」

「分かった」


 魔法が使えなくなったのか……嘘だよな。

 ショックを受けて放心していると、誰かが肩に手をおいた。

 ネコナ母さんだ。

 

「落ち着いて、ソラ君。たぶん一時的に魔法が発動できないだけよ」


 一時……的? 本当だろうか。

 再び点火を試みる。


 一瞬だけ火が点いて、消えた。


「お母さーん、お父さん連れてきた」

「アナタ、ソラ君の魔力量見てちょうだい」

「いきなりどうしたんだ、まぁいい分かったから手を離してくれティアナ。ふむ……ソラよ、魔力が空になっているが平気か?」


 魔力が空……予兆か出たら残り半分じゃなかったのか。どうなんだ。


「おかしいわね、ソラ君まだ起きてるわよ?

 魔力枯渇すると気絶するほどキツいはずなんだけど……なんともないなんて、変わった体質ね」


 気絶するまで魔法使わせる気だったのか。

 というか体質の問題なの? 原因は魔力枯渇なのは間違いないみたいだけど。


「特異体質というやつか。枯渇時でも動けるように特訓する必要がなくて羨ましいぞ、ソラ」

「あ〜あれ、やらなくていいとか羨ましい」


 父娘おやこから羨ましがられた。

 気絶一歩手前で特訓すんのかな……その特訓。

 特異体質ってのは響きが良いな、この場はそれで納得しておこう。その方が気分が良いし。


「ところで母さん、お昼は何だい?」

「そうね、肉じゃがと味噌汁に……あとはティアナに目玉焼きでも焼いてもらおうかしら」

「え、私が焼くの? 焦げても知らないよ」

「それは楽しみだ、急いで仕事を片付けるか。

 よし、ソラ! 手伝え」


 あの、襟持って引っ張らんでくれます? 首が締まってる、締まってるから。

 そうして俺は書斎らしき部屋へ引きずられていったのだった。



 


 思いの外、片付いてる書斎だった。

 タイガさんならもっと散らかってるイメージだったからちょっと意外。


「おい、意外と片付いてるとか思っただろ。

 まぁ確かに昔は散らかってたがな、今は早く仕事を終わらしたくて片付けるようにしてるのだ」


 図星を突かれた、話を逸らそう。


「手伝うのはいいけど、文字は加護のおかげで読めても字は書けないんだけど。あ、でも加護を発現すれば書けるらしいんですがやり方が分からないんで今は無理です」


「なんだと? まぁ、異世界から来たのだし仕方がないか。加護を発現させてまでやるような仕事でもないしな……そうだ、確かここに……」


 話を逸らすのには成功したが、手伝える事は無い気がするけど……何を探しているんだろう。


「あった、これだ。昔、ティアナが文字を覚えるのに使っていたヤツだ。あそこで文字を書く練習をしているといい。

 あと、堅っ苦しい喋りが微妙に残ってるぞ」


「あ、ありがとうございます。

 喋り方はその、慣れるまで待って下さい」


 受け取った教材と練習用の紙を貰い、指示された場所で文字を書く練習を始めた。

 教材の中にはティアナが練習に使ったであろうノートもあった。子供の字でビッシリと書かれた文字は見ていてなんだか微笑ましい。

 小っちゃい頃のティアナに元気を貰って、黙々と文字を練習する。

 そしてティアナが昼食に呼びにくる頃には文字の書き方をマスターした。一種類だけ。

 あとは辞書かなんか呼んで単語とか覚えてくだけだが……漫画や小説を読ませてもらおう。その方が絶対早いと思う……というか早く読んでみたい。


「少し待ってくれ……よし、これで釣りに行ける。

 ソラも字の練習はそこまでにして飯にしよう」

「あー! 私の小っちゃい時のノート! お父さんなんでソラが私のノート見てるの? 人に見せないでって言ったよね」

「なぬ? ティアナが練習帳にしてたノートはここに……無いな。スマン、ティアナ」

「もーお父さん、ご飯抜き!」

「そ、そんな……」


 別に見られて恥ずかしいようなノートでもないと思うけど、何が恥ずかしいかなんて人それぞれか。

 それとも最後の方になんか書いてあんのかな、最初の方を見ただけだから分からないけど。

 ノートをパラパラっとめくって見たが、特に変な所は無い……最後までぎっしり字が練習してあって感心したくらいだ。


「ソラ〜、なんで見ないでって言ったのに読んでるのかな〜。まだ字が汚かった頃のだから読まれると恥ずかしいんだけど」


「いや、俺の子供ん頃と比べたら綺麗な字だよ。

 それに小っちゃい頃のティアナも頑張って字の練習してたのが伝わってきて、俺も字の練習頑張っちゃったよ。きっと、タイガさんはそれが狙いだったんだよ」


「え? ……そ、そうだぞティアナ、ソラ君の為にあえて渡したんだ。黙って渡したのは悪かった」


 タイガさん……声、上ずってますよ。


「む〜しょーがないな〜、ソラに免じて許します」


 ティアナの許しが出たところで、書斎を出て部屋を移動する。

 昼飯は魔法で出した水を使って調理したモノか、大丈夫だろうか。


「(ソラよ、助かった。ありがとう)」


 食卓へ着くまでの途中でタイガさんが小声で礼を言ってきたので、小声で「どういたしまして」と返しておいた。




 

 食卓では、すでにネコナ母さんが配膳を全て済ませ待っていた。

 朝食の時より良い匂いがする。

 朝より食欲を刺激する匂いのせいか、一緒に部屋へ入ってきたはずの二人がいつの間にか席に着いていた。匂いを嗅いでいる場合ではなかった。

 急いで自分の席へ座る。


   「「「「いただきます!」」」」


 朝と同様、みそ汁からいただく。

 朝と比べ出汁の旨味が強い。

 かなり出汁の効いたみそ汁になっている。

 朝のみそ汁を静とするなら、このみそ汁は動!

 食欲を刺激し、より食を進めようとさせてくる。


 続けて白米を頬張る。

 朝より甘味が増して、ふっくらとした米は同じ品種の米なのか疑いたくなるほどだった。

 おいしい、おいしいのだが……ちょっとだけ甘味が強過ぎておかずと共に食すには不向きかもしれない。


 では、肉じゃがはどうか。

 若干煮崩れしているが、かなり味が染みていて絶品だった。

 野菜は柔らかく、出汁と肉の旨味が染み込んでいて苦手だったニンジンがすんなり食べられる。

 肉は牛でも豚でもない未知の肉だが硬過ぎず柔らか過ぎずの口当たりがサッパリした味で、味の染みた野菜と食べるとアクセントとなって箸が進む。


 目玉焼きはティアナが焼いたんだったかな。

 両面を焼いた、堅焼きで黄身までしっかり火が入っている。微妙に焼き過ぎて焦げ目がついてるのはご愛嬌、女の子の手料理が食べられるんです文句は言いません。

 醤油をかけて一口、口の中の水分を持ってかれたのでみそ汁も一緒に食す。悪くない。

 次は白米と一緒に食べる。

 これは……甘味が増してモチモチになった米と合うではないか。目玉焼きの残りを白米の上にのせ、醤油を数滴垂らして食べ進める。途中でみそ汁と肉じゃがもはさみながら食べていく。



 「「「「ごちそうさまでした」」」」



 気づいたら食べ終わっていた。

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