第8話 新しい名前

 さて、話を進めよう。いや違う、話を戻そう。

 真名云々の前は何を話していたっけ……あれ、俺大して喋ってないな。

 何を話すべきか分からなくなり、対面に座る二人に視線を向ける。隣のティアナは虎耳を押さえた姿勢のままこちらをじーっと見ている。いや睨ん……あ、これがジト目ってやつか。

 ジト目のティアナを眺めてたいが、それをやるとまた話が進まなくなるのでグッと我慢して対面の二人のどちらかが話し始めるのを待つ。


「(な、なぁ母さん、空太郎はなぜ黙ってこちらを見ているんだ? 微妙にティアナの方へ視線が泳いでいるが……)」

「(たぶん何話してたか忘れたのね)」

「(なに!? 空太郎もか……)」

「(アナタ……)」


 小声で相談してないで何か喋って欲しかった。


「(ねぇ空太郎、今何してたんだっけ?)」


 誰かが喋り出すのを待っていたら、ティアナが小声で話しかけてきた。


「(話の続きをしようとしてたとこだよ)」


 なんとなくだが俺も小声で返す。


「(何の話してたっけ?)」

「(思い出せないから黙ってんだけど……)」

「(あー、空太郎泣いてたからしょうがないね)」

「ちょっ、ま……そうだけど……」


 いかん声が大きくなってしまった。

 二人の視線がこちらに……いや、さっきから向いてたな。

 話の切っ掛けをと願いながら視線を送り返す。



「はぁ〜、貴方達揃って何話してたか忘れたのね」


 ため息混じりでネコナ母さんが話始めてくれた。


「空太郎君の新しい名前をどうするかよ」

「「それだ!」」


「え、いやそうだっけ……」


 タイガさんとティアナが声を揃えて賛同したが違うよな……そんな話はしてなかったはずだ。

 真名である『里神 空太郎』を伏せる為に新しい名前を考えるのか? それなら話は繋が……いや、違う話だよね。


「まったくの新しい話題よ」


 ですよねー、ってなぜ話題にしたし。

 あ、なんか思い出してきた。異世界云々の話をしてたっけな。


「でも、ちょうどいいから考えてしまいましょ。

 と、言っても考えるのは空太郎君本人よ」


 新しい……名前……か、親に付けてもらった『空太郎』の名前は嫌いじゃないが。名前の由来はなんだったかな……確か小学校の時に宿題で聞いた覚えがある。親父にとってのヒーローの名前から拾って付けたらしい。意味か願いを込めて欲しかったな、弟達のように……。

 そういや、から太郎って揶揄われたこともあったな小学生の時に……。

 今の俺は空っぽじゃない。


「えーっとそうだな……「ソラ」「ってどう?」


 ん? なんか声が被ったな。


「わー、私もソラって名前がいいって思ったの」


 被った声の主はティアナだった。

 

「あら、いいじゃない」

「うむ、いい名前だと思うぞ」


 虎耳一家のお墨付きが出たよ。

 ところでどう変更すんのかな……。

 表示しっぱなしだった俺にだけ見える状態のプロフィールの名前横にある〈変更可〉に触れると、文字がグニャグニャに歪み読めなくなる。

 俺の新しい名は『ソラ』だ! 強い意思を持って歪んだ文字を睨むと文字が『ソラ』の字に変わる。



 ソラ

 16歳

 スキル

 ・次回予告

 天恵

 ・モジヨムンの加護



 変化したプロフィールを見る。〈変更可〉の文字が消えている。どうやら再変更はできないらしい。


「その顔は、どうやら新しい名前を付けれたみたいね空太郎君。いえ、ソラ君」

「そうか、『ソラ』の名に決めたか」

「改めてよろしくね、ソラ!」


「あぁ、よろしく」


 なんだか新しい自分に生まれ変わった気分……にはならないが、ちょっと気分が良いぜ。


「さて、ソラ君。ステータスの表示内容の変え方はまた今度にして、【次回予告】でなぜ異世界から来たことが分かったとか色々教えてくれるかしら」


「ステータスを表示できるやつはこの郷では限られているからな、見せる機会はまず無いから気にせず教えてくれソラよ」


 表示内容変えられるんだ。今度教えてくれるみたいだし今は置いとこう。

 なぜ異世界と分かったかだったな……。


「分かりました。

 【次回予告】にはさっき見せたモノと他のモノがありまして、それを見たからです」


「確かに読めない文字のがあったわね」

「いくつあったんだ?」


 『特典映像』のやつはまだ観てないけど、今俺が観れるのは全部で……。


「四つですね」


「まだ三つもあるの!? 見たい!」

「ティアナ、それはできないってソラ君言ってなかったかしら……諦めなさい。私たちの見れない三つを見るとわかるのね」


「実はまだ一つ観れてないんですけど、私が観た内でお見せした以外のを見れば分かるかと」


「あら、そうなのね」

「ソラよ、一ついいか」


「はい、なんでしょう」


「喋り方が硬い! お互いの真名を知り合った仲になったのだ、それでは他人行儀過ぎるぞ」


 そんなこと言われても加減が分からんから難しくないか……てかこの人族長のはずだよな。そんなんで大丈夫なんだろうな。


「この人、族長やってるせいか堅っ苦しくない会話に飢えてるのよ。ソラ君……もしよかったら、仲の良い肉親と話す感じでお願いできるかしら」


 仲の良い……肉親? 俺には無関心な親は違う、勉強を渋々教えてもらいにくる弟妹たちも違う気がする。礼も言わねぇ奴らだしな。

 誰かいたかな……死んだ爺ちゃんがいたな、よしなんとなくイメージが掴めた気がする。


「えっと、分かり……分かった。やってみるよ」


「おお! いいぞ、そんなの感じで頼む」

 

 どこまで話したっけな……俺が観たPVを観たら分かるってとこだったな。


「さっきの続きに戻るけど、俺が観たのはさっきみんなに見せた『陸の書PV』の他に『空の書PV』と『海の書PV』の二つ」


「そう、ならその空と海のどちらかに異世界だと分かる情報があったのね」


 ネコナ母さんが質問してくる。

 どうやらタイガさんとティアナは黙って聞いていることにしたようだ。


「どっちを観ても異世界に転移……いや、異世界に召喚される瞬間が映ってたからどっちか片方だけでも分かったと思う」


「転移……召喚……どっちにしても御伽話か絵物語や漫画でしか見ない類の魔法ね」


 漫画があるのか……ごっこ遊びでポーズがどうのって言ってる時点で気付くべきだったが、あるのか漫画……後で読ませてもらおう。


「『空の書PV』の方で魔法陣が出てきて対象者を召喚したみたいで、俺と海の方に映ってた人はそれに巻き込まれた形で召喚されたっぽいです」


「待って! 貴方の他にも異世界から来た人がいるってこと?」


「たぶんそうだと思います。他の人は空に浮かぶ島に一人、海に浮かぶ島に一人召喚されてました」


 強めに問い詰められると硬くなっちまうな……あのタイガさん、睨むとか口調気にしすぎですよ。


「空と海に浮かぶ島…… 大空域スカイ・グランデ大海域マリン・グランデに他の二人は召喚されたようね。知ってる人?」


「直接の面識は無いけど、近所の人だと思います。

 広がった魔法陣がうちの近所一帯を包んでたんで間違いないかと」


 みんな驚いてるな、無理もない。しかし、なんとかグランデってさっきから聞くけど何のことだろうか……世界が云々言ってた気もするし、今の話が終わったらこの世界のこと教えて貰おう。


「広がった魔法陣だけど……地面に書いてあるのが広がったのよね……まさかだけど」


「あ、いえ、立体型に展開されて最終的に球体状に魔法陣が展開されて光りました。その光の中にいた人の内、俺を含めた三人が召喚されたみたいです」


「そんな……立体型の巨大魔法陣だなんて……」

「馬鹿な……近隣一帯を飲み込むほどの巨大な立体型魔法陣……だと……」


 ティアナだけ立体型って何? って顔してる。

 魔法陣が立体型だと何か不味いんだろうか。

 これで向こうには魔法が無いって言ったらどんな反応するかな……いや、余計なことは聞かれるまで言わない方が良さそうだ。


「も、もう一つだけ聞くわ。貴方は何て所から来たのかしら……」



「日本……いや、地球? こっちの感じ的に言うとなるとマザーアースとかかな?」



「「母なる大地マザー・アース!?」」



 あれ、なんか凄ぇ驚いてんだけど……あ、でも今回はティアナも取り残されてる。やったぜ、今度は一人じゃない……って言ってる場合じゃなさそう。

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